元国連拷問問題特別報告者に聞く --- 長谷川 良

2016年03月02日 12:20

北朝鮮最高指導者の金正恩第1書記は国際社会の批判にもかかわらず核実験を実施、長距離弾道ミサイルを発射し、軍事力の強化に乗り出す一方、国民への締め付けを強め、国内の人権状況はもはや静観できないほど悪化している。そこで元国連拷問特別報告者であり、人権問題の国際的権威、ウィーン大学法学部のマンフレッド・ノバク教授(65)に北の人権問題の現状と国際社会の課題などについて緊急インタビューした。

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▲インタビューに応じるノバク教授(2016年2月29日、ウィーン大で撮影)

――教授は国際法と人権問題の専門家だが、テロの定義と同様、人権の定義も多種多様だ。先ず「人権の定義」を説明してほしい。

「人権は国際条約の中でかなり明確に定義されている。人権は、公民の、政治的、経済的、社会的、文化的、そして連帯的な権利を総合したもので、国連人権憲章のほか、児童の権利、障害者の権利、女性や民族の差別保護など多数の特別な人権憲章がある。同時に、欧州、アフリカ、米国では地域的な人権規約がある。また、国家的レベルでも存在する。例えば、ドイツの基本法だ。各国の憲法の中には個別で明記された権利も人権に含まれる」

――今回の会見テーマ、北朝鮮の人権問題について聞きたい。北の人権状況は世界で最悪といわれている。教授は北の人権状況をどのように受け止めているか。

「世界で人権が最も蹂躙されている国はどこかと聞かれれば、最初に北朝鮮の名が挙げられる。なぜならば、北朝鮮は独裁国家だからだ。20世紀の国家社会主義やスターリン主義を想起させる独裁国家だ。北朝鮮の人権状況を記述した多数の報告がある。特に、国連の北朝鮮人権調査委員会の報告内容は非常に強烈だ。2014年に設置された同委員会の人権報告書は北の人権状況が非常に危機的であり、絶望的であると明記している」

――世界のキリスト信者の迫害状況を発信してきた非政府機関、国際宣教団体「オープン・ドアーズ」が公表するキリスト教弾圧インデックスでは北は毎年、最悪の「宗教弾圧国」に挙げられている。

「独裁政権は国民の個人的な生活領域までコントロールする。すなわち、監視システムだ。宗教活動もその対象となる。宗教の活動は意見の表現として解釈され、金王朝の正統性に疑問を呈する行為として受け取られる。だから、弾圧の対象となるわけだ」

――北朝鮮はジュネーブの国連人権理事会に出席し、人権批判に対して弁明する予定だ。北はこれまで人権問題を追及されると、主権国家への内政干渉と反論してきた経緯がある。

「独裁国家が人権問題を追及されると繰り出す古典的な反論だ。その反論は間違っている。国連憲章第2条7節には『本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではなく、また、その事項をこの憲章に基く解決に付託することを加盟国に要求するものでもない』という箇所が記述されている。しかし、その国内管轄権条項の内容は今日、有効ではなくなった。すなわち、国内管轄権条項はその後、非常に変わってきた。例えば、北朝鮮は国連児童憲章に批准した。だから、その内容は拘束力のある義務だ。児童権利委員会は北の児童の権利の履行状況を検証できる。北が同憲章を批准することで自主的にその義務を負ったからだ。

国連人権理事会は2006年、人権状況検証の最高機関として設立された。例えば、普遍的定期審査(UPR)では加盟国は定期的にその人権状況の検証を受ける。人権理事会が北の人権状況に懸念を指摘した場合、人権特別報告者を召命し、調査委員会を設置する。理事会が加盟国の多数決に基づいて法的に許された対応だ。そうなれば、北朝鮮は原則としてその委員会と連携しなければならない。しかし、北は過去、連携を拒否し、国連特別報告者や北朝鮮の人権状況を調査する国連の調査委員会(COI)の現地調査を認めなかった。国連加盟国としては考えられない対応だ」

――北朝鮮の人権問題を担当するダルスマン国連特別報告者は、金正恩第1書記に「人道に対する罪」で調査される可能性があると通告するよう人権理事会に求め、同第1書記を国際刑事裁判所に訴える可能性を示唆している。

「北の人権蹂躙が最悪状況であり、人道への犯罪といえるからだ。特に、政治収容所では拷問や抹殺、殺害、横暴な拘禁などが行われている。それらは組織的に行われている。これは国際刑事裁判者の第7条の『人道に対する犯罪』に該当する。国連安保理が北朝鮮問題を国際刑事裁判所に委ねることを決定すれば、私は重要な一歩として支持する。国際刑事裁判所には例外条項がない。追及の手はもちろん最高指導者まで及ぶことになる」

――教授は2004年から10年まで国連拷問特別報告者としてイラクや中国で現地調査を行われた経験がある。しかし、北朝鮮はまだ訪問されたことがない。招待されたら北を訪ねる考えはあるか。

「もちろんだ。私は北を訪問したことがない。これまで招かれたこともない。自分は長い間、行方不明者のための国連作業グループのメンバーだった。1990年代には多くの行方不明者のケースが報告された。日本政府や非政府機関から報告されたケースがあった。人々が突然、コペンハーゲンやロンドンから行方不明となった。その背後に、北朝鮮工作員が拉致している疑いが出てきた。われわれは当時、ジュネーブの北朝鮮大使や使節団と接触し、現地調査団の派遣を打診したが、北からは調査の協力が得られなかった。国連拷問特別報告者の時も北は現地調査を拒んだ」

――国連北朝鮮人権特別報告者ダルスマン氏の任期は今年7月で終わる。後任の特別報告者探しが行われているが、教授はそのポストを引き受ける用意はあるか。

「問題は時間だ。私は現在、ウィーン大学とヴェネツィア大学の教授だから時間的に余裕がない。原則としては、願われたら考えざるを得ないだろう。しかし、北朝鮮当局が私に対し、これまでの特別報告者より協調的になって現地調査を認め、北の調査後、韓国を訪問し、脱北者にインタビューすることを受け入れるとは考えられない。独立の立場で現地の調査が出来れば興味深いが、その可能性があるとは思えない」

――次に、人権と制裁の関係について聞きたい。国際社会は対北制裁を実施している。しかし、制裁が独裁国家の指導者にダメージを与えるばかりか、大多数の国民が制裁の犠牲となる。すなわち制裁は北国民の人権を蹂躙することにならないか。

「もちろん、それは考えられる。制裁は安保理が国連憲章41条に基づいて人権を蹂躙している国家に対して実施する。例えば、クルド人やシーア派を弾圧していたイラクのフセイン政権、1992年にはソマリア、2011年にはリビアといった具合に制裁が実施されてきた。制裁は経済制裁だけではない。口座の凍結、特定人物の渡航禁止、旅券発行禁止など他の国々もその遵守を義務付けられる。特に、世界の平和が脅かされた時、制裁を実施するのは国連安保理の課題だ。もちろん、人権蹂躙よりも、大量破壊兵器や核兵器によって世界の平和はより脅かされる。しかし、自国民の保護という国家の基本的な義務を果たす能力のない、あるいは果たす意思のない国家に対し、国際社会が当該国家の保護を受けるはずの人々について『保護する責任』(Responsibility to Protect)がある。北朝鮮の現状に該当する内容だ。安保理は時には国連憲章42条に基づく軍事的対応を容認する例も出てくる。この国際社会の『保護する責任』は2005年の国連総会で全会一致で採択されたものだ。これはコートジボワールやリビアで既に適応された。単なる制裁ではなく、軍事力の行使を公に認めている」

――最後に、日本人拉致問題について聞きたい。北朝鮮は日本側の制裁決定に対抗する目的から日本行方不明者調査特別委員会の解体を宣言し、調査を打ち切りを通告してきた。日本人拉致問題は久しく日本側と北側で交渉が行われてきたが、解決までには程遠い。

「私はこの問題が重要であることを知っている。日本政府は過去、北朝鮮と忍耐強く交渉を繰り返し、解決を試みてきた。そして一部は解決した。ただし、拉致問題の解決見通しはここにきて厳しくなってきているように感じる。北朝鮮の拉致問題は単に日本人だけの問題ではなく、国際問題だ。北朝鮮国民もさまざまな理由から海外で拉致され、強制的に帰国させられている。これは他国の主権性の重大な蹂躙だ。日本政府はこの問題を国連の場に出し、国連が北朝鮮に圧力を行使するように期待している。国連の可能性は限られているが、安保理で対北強硬制裁を拒否してきた中国が北の核実験とミサイル発射に直面して対北政策の変更も考え出してきた。北朝鮮の人権問題が国連人権理事会だけではなく、国連総会、安保理の場でも議論されていくことを期待する」

【マンフレッド・ノバク教授の略歴】 
1950年6月、オーストリアのBad Aussee生まれ。人権問題の権威者、2004年から10年の間、国連の拷問問題調査官を務める。2005年、中国を訪問し、人権問題を査察。中国当局による広範囲な人権蹂躙を告発する報告書を公表した。ウィーン大で法学博士号を修得し、コロンビア大でマスター称号を得る。ウィーン大学の国際法・人権問題教授。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年3月2日の記事を転載させていただきました(編集部でタイトル改稿)。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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