【映画評】マネー・ショート 華麗なる大逆転

渡 まち子
世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)

2005年のアメリカ。変わり者の金融トレーダーのマイケルは、サブプライム・ローンが数年以内に債務不履行に陥る可能性がある事に気付くが、ウォール街では一笑を買ってしまう。そこで「クレジット・デフォルト・スワップ」という金融取引に目をつけ、新たな戦略で出し抜いてやろうと考える。同じ頃、マイケルの動きを察知した、銀行家ジャレットはヘッジファンドマネージャーのマークに連絡を取り、伝説の銀行家ベンらもまた、経済破綻の到来を予測し、ウォール街を出し抜こうと図っていた…。

世界金融危機の到来を予期した金融界の4人のアウトサイダーたちの物語を描く「マネー・ショート 華麗なる大逆転」。リーマン・ショックの裏側を描くこの映画、経済破綻という結果が分かっているのに、めっぽう面白い。専門的な経済用語が飛び交うが、そこは「俺たち」シリーズを手掛けたコメディー畑のアダム・マッケイ監督、テンポよく、飽きさせない演出で、難しいコトをやさしく紐解いてくれるので、安心してほしい。金融危機を予想した数少ない投資家やトレーダーたちが、どう動いたか。金融界のモラルのなさやそのハチャメチャぶりがいかにひどいか。我々庶民にとっては、飛び交う金額の桁が大きすぎて、実感できないのが難点だが、アメリカの狂乱が世界中に与える大打撃は理解できる。

この映画の副題は“華麗なる大逆転”だが、物語に痛快さはなく、むしろ漂うのは悲哀と憂鬱だ。劇中で、ブラピ演じる伝説の銀行家ベンが、経済破綻に賭けて勝利を確実にした若者たちに言う。「単純に喜ぶな。これでアメリカの無数の庶民が家と職を失い、破産するんだぞ」。自国の悲劇と崩壊を予測し、それに賭けて勝利しても、そのマネーゲームの後味はすこぶる苦いのだ。クリスチャン・ベールをはじめ、俳優陣は揃って好演。中でも、コメディアンだが最近ではめっきり演技派になったスティーブ・カレルが演じる神経症のトレーダーの人間性を深く掘り下げているのは、金融界のアンモラルを何とか正そうとしているかのようだ。アカデミー賞では脚色賞を見事に受賞。物語の随所で、ドラマと関係のないスターたち(実名でカメオ出演)が難解な経済用語や仕組みを観客に向かって比喩で説明するというエンタテインメント風の演出が、ユニークかつ効果的だった。
【85点】
(原題「THE BIG SHORT」)
(アメリカ/アダム・マッケイ監督/クリスチャン・ベール、ブラッド・ピット、ライアン・ゴズリング、他)
(ビター度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年3月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。