学歴詐称より重大な詐称を見逃す愚 --- 中村 仁

2016年03月21日 06:00

情報戦の現代社会は詐称で回る

テレビ朝日の報道ステーションに定期的に出演していたコメンテーターが学歴、経歴詐称でつまづきました。わたしも番組をしばしば拝見していまして、テレビ映りは確かにいいハーフのタレント風だなと、思っていました。この人が集中砲火を浴びるのを見ると、どこか哀れなのです。さらに詐称といえば、もっと大きな詐称問題があるではないかと、考えてしまいます。

キャスターの古舘氏はみっともないことをしました。詐称というか、いわばニセ情報で、視聴者を欺いたのですから見方によっては犯罪的行為でしょう。批判精神が旺盛で、普段は舌鋒の鋭さを売りにしている古舘氏がそれを見抜けなかったのですから。この人物の偽装の腕前は大したものです。まあ、とにかく有名番組のキャスターが詐称で降板し、現代社会らしい珍事となりました。

「ショーン・マクアードル・川上」という名前でしたから、私はてっきり日米混血のハーフだと信じこんでいました。発覚後、ハーフ似にする整形手術をしていたとのうわさが流れ、「そこまでやらないと、タレントになれないのかなあ」と、感心するやら、同情するやらでしたね。整形手術の真偽は、もうどうでもいいことでしょう。

 

大物ほど追及を逃げきる

わたしはかねてから、犯罪的行為では、小物がよく引っ掛かるのに対し、大物ないし巧妙なものは見逃されるという展開に不満を持ってきました。今回もそうですよ。週刊誌やバラエティー番組向きの絶好のネタであっても、もっと大きな詐称のほうを追及すべきではないか、痛感していますよ。

まず病歴詐称です。甘利経済再生担当相が建設会社の関係者から大臣室などで現金を受け取っていたことを認め、1月、辞任しました。展開によっては斡旋収賄にも発展しかねません。辞任直後、甘利氏は「睡眠障害で一ヶ月の療養が必要」との医師の診断書をもらい、表から姿を消しました。「睡眠障害」とは便利な医学用語ですね。これも情報戦術であり、詐称の疑いがあります。

睡眠薬を処方してもらえば、なんとかなりそうなものをと、思いますよね。1ヶ月過ぎ、最近また、「睡眠障害でさらに2月の療養が必要」とのことです。これでは国会喚問も、当局による事情聴取もできません。むしろ、できなくさせるための詐称と疑いたくなります。安倍首相は「任命責任はわたしにある」と明言したのですから、少なくとも病床に見舞いに行き、様子を報告すべきでしょう。

 

「第三者委の調査」という詐称

政治家といえば、経産相だった小渕氏は政治資金不正疑惑で追及され、「第三者委員会を作って調査し、報告する」と約束しました。世間が忘れ去るのを待っており、もはや報告する気ないようですね。「第三者委に調査」も詐称だと思います。見え透いた政治家の詐称には政界記者も追及が甘いのです。

経済界では、名門企業・東芝が不正会計問題で揺れています。3代の社長が絡み、犯罪行為である粉飾決算を続けた疑いがあります。東芝の第三者委員会は「不適切会計」と結論づけました。これも詐称ですね。粉飾を不適切と、詐称したのです。やっと証券取引監視委が社長らの事情聴取をはじめ、刑事告発の可否を検討することになりました。

自分に不利であれば、犯罪的行為であっても、進んで真実を語らなくても許容されるというのが現代社会の扱いです。ですから尻尾をつかまれ、申し開きができなくなる個人的なスキャンダルほど、引責に追い込まれるのでしょう。現代の情報戦では、小物ほど断罪されてペナルティーを課され、大物ほど逃げ切るという不均衡があります。

 

日銀の金融政策も広義の詐称

考えてみれば、情報戦の現代は詐称の塊りです。「消費者物価を2年で2%上げる」と公約し、異次元金融緩和に踏み込んだ黒田日銀総裁の政策も詐称ですね。海外要因による影響にまったく触れず、国内金融政策だけで物価を左右できるというのは間違っていました。さらに、国民が「物価は必ず上がる」と思い込めば、「そうなる」と、黒田氏は繰り返してきました。これも、現代の情報戦における詐称行動でしょう。

そもそもは、安倍首相がデフレ脱却に黒田氏を使えそうだと信じ込み、思い込みの激しい黒田氏もその気になってしまったのが間違いのもとでした。もっとも国内景気がよくならないまま、物価だけ上がるのは国民にとって願い下げですから、「2年で2%」は詐称に終わっていて、むしろよっかったのでしょう。歓迎される詐称もまた存在しうるというのは、皮肉なことです。

誤解のないように申し上げると、学歴、職歴詐称のコメンテーター氏を放免しろというのではありません。そうであっても、とにかく子供じみたことを考えた人でしたね。この人物が「長らくの休業を決断した。いつかまた皆様にお会いしたい」と、降板の際に発言したというのを聞いて、最後の最後まで、この人は子供じみていたと、思いましたね。

 

中村 仁
読売新聞で長く経済記者として、財務省、経産省、日銀などを担当、ワシントン特派員も経験。その後、中央公論新社、読売新聞大阪本社の社長を歴任した。2013年の退職を契機にブログ活動を開始、経済、政治、社会問題に対する考え方を、メディア論を交えて発言する。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年3月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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