マイナス金利撤回論も出た決定会合 --- 久保田 博幸

2016年03月25日 11:30

24日に日銀は3月14、15日に開催された金融政策決定会合における主な意見を公表した。この会合では金融政策は現状維持となったが、1月に導入を決定したマイナス金利に関して、かなり激しい議論があったようである。

3月の決定会合でマイナス金利に賛成したのは黒田委員、岩田委員、中曽委員、白井委員、石田委員、原田委員、布野委員で、1月のマイナス金利導入に反対した白井委員、石田委員は今回は賛成票を投じている。いずれも反対したのは佐藤委員、木内委員となっていた。

マイナス金利の評価としては、貸出の基準となる金利や住宅ローン金利ははっきりと低下しており、金利面では政策の効果は既に現れている、制度の設計段階で考えていたとおりの効果が現れた、との見方が示された。

その一方で、「マイナス金利導入の副作用として挙げたリスク、すなわち、国債買入れの限界と誤解される、催促相場になる、金融機関や預金者の懸念・不安を招き2%目標への誤解を高める、複雑な仕組みが政策効果を削ぐという点が全て顕在化している」との見方や、「ポートフォリオ・リバランスは、国内での再投資対象が限られており、期待される効果に必ずしもつながっていない」との見方も示された。

また、「マイナス金利については、市場もそれを前提に動き出し、関係する多くの経済主体でも対応が採られていることから、元へ戻すという選択肢は採り得ない」、「マイナス金利政策は撤回が望ましいが、導入直後の撤回は市場を混乱させるほか、日本銀行の信任を失墜させるリスクがあるため、効果を明確に示せない限り現状維持にすべきと考える」との意見があり、マイナス金利の撤回論も出たが、それでも日銀の信認維持のためには元に戻せないとして、3月の現状維持に賛成した委員からの発言とみられ、これは白井委員と石田委員からの意見か。

金融仲介機能に対する影響については、銀行収益はデフレ脱却により大きく改善するとの指摘や、利益の源泉が長短金利差だけであれば金融仲介を十分に行っているとは言えない、との指摘がある一方、「マイナス金利政策は金融仲介機能の低下から経済に悪影響をもたらすほか、将来の金融不均衡蓄積のリスクを高める。また、人々の不安を高め、デフレマインドをかえって強める方向に作用している」との指摘もあった。

3月の会合でMRFがマイナス金利適用外となったことに関しては、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の緩和効果を最大限に引き出すため、今回の実務面の対応策のように改良・工夫を重ねていくことは政策当局としての当然の責務である」、「特例的取扱いはマイナス金利の限界を示唆し、市場の振幅を高めかねない。催促相場に入った以上、市場との対話はきわめて難易度が高くなった」との両極端の意見が出ていた。

マイナス金利に対する評価については、長期金利の急激な低下の影響も見定める必要もあり、もう少し時間を掛けて見る必要はあるとは思う。ただし、撤回が望ましいとの意見や、その副作用を指摘する意見も出ていた。そして、主な意見ではあまり議論がなかったとみられる肝心の物価目標の働きかけについては疑問が残ろう。

「マイナス金利が国民の一部に不安をもたらしている面もあり、期待に働きかける難しさを感じる」

「サプライズが日本銀行の政策反応関数を不透明にし、市場の不安定化に拍車をかけた」

「マイナス金利導入決定後の急激な金融市場の収縮、国債市場のボラティリティ上昇等に起因する金融市場全体の不安定化が、経済に及ぼす悪影響を注視したい。」

上記の意見は木内委員や佐藤委員などマイナス金利に反対した委員からの発言と思われる。個人的にはこちらの方が正論に聞こえるが、それはさておき、このような反対意見も委員会制度を取っている日銀の金融政策の決定にはたいへん重要なものとなろう。しかし、審議委員の任期満了になるごとに、現在の執行部のスタンスに対する反対者が減っていくという事態が起きており、いずれはこのような反対意見を見ることができなくなるのかもしれない。果たしてそれで良いのだろうか。

顔写真201011
久保田博幸(くぼた ひろゆき)
1958年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学法学部卒。
証券会社の債券部で14年間、国債を中心とする債券ディーリング業務に従事する傍ら、1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。専門は日本の債券市場の分析。特に日本国債の動向や日銀の金融政策について詳しい。現在、金融アナリストとしてQUICKなどにコラムを配信している。また、「牛さん熊さんの本日の債券」というメルマガを配信中。2015年まぐまぐ大賞で資産運用部門第2位を受賞。日本アナリスト協会検定会員。

主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓」すばる舎、「短期金融市場の基本がよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年3月25日の記事を転載させていただきました。転載を快諾くだいました久保田氏に心より御礼いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

 

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