原発のコストは高いの?

2016年03月26日 15:04

四国電力は、伊方原発1号機を廃炉にする方針を経産省に伝えました。原発の運転期間は原則40年ですが、1977年に運転開始した1号機は来年、その期限が切れます。規制基準がきびしくなったため、それを20年延長するには追加費用が1700億円もかかり、採算があわないと判断したためです。

これから古い原発は廃炉になっていくでしょう。関西電力の美浜3号機も、追加費用が2700億円もかかることから廃炉を検討しているようです。これまで「原発は安い」といわれてきましたが、規制基準がきびしくなったため、コスト面では不利になりました。ヨーロッパでも規制が強化されたため、フランスの原発メーカー、アレバは経営危機に陥っています。

キャプチャ
電源別の発電コスト(コスト等検証委員会、2011年)

この図は民主党政権が計算したもので、今までの安全基準では原発が一番安いのですが、新しい規制基準で計算すると、石炭火力より高くなります。だから電力会社は、政治的に面倒な原発は減らして、コストの安い石炭火力に切り替えています。

原子力はしょせん発電方法の一つだから、総合的なコストで考えて石炭のほうが安いのなら、電力会社がそれを使うのは当たり前です。石炭の埋蔵量は200年以上あり、産地も片寄っていないので、石油のような地政学的リスクも少ない。これから石炭火力の比重が増えていくでしょう。

しかし図をよく見てください。原発の燃料費は1.4円と石炭火力の1/3だから、いまある原発を再稼動するコストは、他の電源よりはるかに安いのです。最大のコストは、事故リスク対応費用(5.8兆円)などの「社会的コスト」の対策費にかかっています。新規制基準でこの対策費は2倍以上になり、原発のコストは石炭火力を上回ります。

では原子力の社会的コストは、石炭より大きいのでしょうか? 以前のこども版でも見せたように、石炭火力による大気汚染や炭鉱事故の死者は(発電量あたり)原子力の4000倍です。おまけに石炭の出すCO2は化石燃料の中でも最悪ですが、原発からCO2は出ません。日本は2030年までに温室効果ガスを26%削減することになっているのですが、これは原発なしでは実現できません。

つまり原発のコストの大部分は、マスコミが騒いだり、政治家が地元にいい顔をしたりするための政治的コストなのです。電力会社も今までは通産省の国策に従って地元対策の大変な原発を建設してきたのに、いざとなったら経産省は責任をすべて東電に押しつけて逃げてしまいました。これでは危なくて原発の新設なんてできません。

でも本当にそれでいいんでしょうか? 重量あたり石炭の300万倍のエネルギーを出せる原子力には、まだまだ技術的に大きな可能性があり、ビル・ゲイツなどが新技術を開発しています。いま日本の原子力技術は世界のトップですが、このまま原発を減らしていくと、2050年代にはゼロになります。

それは電力会社としては経営合理的ですが、大気汚染も気候変動も大きくなり、地球は汚れます。化石燃料の価格も今は下がっていますが、そのうちどうなるかわかりません。そして長期的には、確実に枯渇します。

原発事故で死者が出たのは放射能のせいではなく、「鼻血が出る」などと騒いだマスコミのおかげで、多くの人が家に帰れなくなったからです。そんな感情論で日本が原子力技術を捨てたら、よい子のみなさんの世代に大きなエネルギーコストを負担させる結果になります。事故から5年たって、そろそろ冷静に考えてはどうでしょうか。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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