はずれて喜ばれる物価引き上げ目標

2016年04月06日 06:00

もう無理なことをするな

黒田日銀総裁による異次元金融緩和は丸3年になり、4年目に入りました。安倍首相とともに約束した消費者物価の2%引き上げ目標の達成が遅れに遅れ、いまだに実現のメドが立っていません。そのことが多くの国民からむしろ喜ばれているのです。珍妙な経済目標となりました。

景気がよくなっていないのに、物価だけが上がれば、消費者は生活が苦しくなります。まず先に物価を上げれば、景気がよくなるはずという黒田総裁の経済思想(貨幣数量説)は本末転倒でしょう。緊急対策としては許容される大規模緩和の使い道を間違えているのです。

メディアも目標達成の遅れをあれこれ分析、解説していても、黒田総裁を本気で批判する声はあまり上がりません。無理して目標を達成するより、達成されないほうがいいからです。デフレ脱却が目的だといっても、国内の金融政策だけで達成することがそもそも無理なのです。海外要因の影響もあるし、経済成長の長期的な停滞という構造要因もあります。

 

長期の緩和をすると構造転換が遅れる

黒田総裁も政治に翻弄されており、同情はします。金融政策で政治を支援すれば、消費税10%の実施、財政再建策、構造改革が進むはずだ、との期待は裏切られているからです。それどころか、中央銀行に大胆な金融緩和をさせて安心すると、政治・政府が財政再建に真面目に取り組まなくなってしまうのです。

誰がいつ、そのコストを負担するのかが見えにくい金融政策(中央銀行)ばかりにシワ寄せがきて、「君、よろしく頼むよ」という構図です。資産価格が実力以上の水準に押し上げられています。資産価格が不安定になればなったで、「市場の動揺を抑えるために、景気刺激策をとれ」となります。

金融政策を軸に、デフレ脱却という歴史的大実験を始めた日銀はメンツもあって、「みなさんがおっしゃるように、間違いでした。やはり物価はなかなか上がりません」といえません。だから追加緩和、マイナス金利導入など、次々にサプライズ狙いの奇策を繰り出し、「効果が出ている」と、うそぶくのです。

 

オバマ大統領の圧力に応じるな

世界経済の不調、数少ない成果とされていた株高の急落、為替相場の反転(円安の終焉)を前に追加緩和を要求する声がしきりです。日米首脳会談でも、サミット(G7首脳会議)でオバマ大統領から「議長国の日本はイニシャティブをとってほしい」と、圧力がかかりました。

そんなことにまともに応じていたら、副作用を積み上げるだけです。応じてはいけません。追加緩和をしても、小粒だといわれて失望を買うだけでしょう。逆に、サプライズ狙いで大胆なことをすれば、そんなことまでして将来、大丈夫かといわれるでしょう。

2%上昇を達成できる時期(当初は2015年度)は、半年刻みで先延ばしを続けており、近く「17年前半」をさらに延ばすようですね。今から1年経っても、上昇率は1%に満たないといわれており、黒田総裁の悩みは深いでしょう。もう目標時期の先送りゲームはやめたらいいのです。

 

後講釈が好きな日銀

「原油価格の急激下落で消費者物価が下がらない」が日銀の口ぐせです。つまり海外要因が大きいのだというのです。後講釈ですよ。2%目標を決めた時(13年4月)、海外要因によっては遅れるなんていっていませんでした。それに石油代金の支払いが減った分、購買力が増し、国内需要を押し上げ、物価も引き上げることになるはずです。そうならないほど、デフレの原因は構造的で根が深いのです。

さらに、海外要因のせいだというなら、円安の作用も除く必要があります。円安は物価引き上げ要因ですから、それを除いたら物価はもっと下がっている計算になります。要するに「2%」の中身があやふやなまま、デフレ脱却計画を唱えてきたのですね。

消費者からすると、景気がよくなり、賃金も上昇し、その結果として、物価も上昇するというのならば、歓迎です。経済の好循環がもたらすインフレ圧力であり、2%程度の適度のインフレならそのこと自体に景気刺激効果があります。異次元緩和を3年もやっているのに、効果がでていません。

 

人工的な景気浮揚策は息切れする

米国の景気の拡大は8年に及び、いずれ後退期に入るでしょう。牽引役だった中国経済は「長い冬」に入るとの見方が有力です。新興国経済も中国の影響で低調です。「2%目標」の意味はほとんどなくなります。

米国の著名投資家ロジャーズ氏は「金融緩和で人工的に景気浮揚させても、長続きしない。アベノミクスは間違ったことをしている。政府債務はさらに増え、通貨安になっている。肝心なのは問題(構造的な問題)を直視することだ」(日経、3月15日)と、警告を発しています。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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