“独裁者”の最後はなぜこうも似る〜セブン会長退任

2016年04月08日 14:22

鋭敏だった鈴木氏も陥る罠

なんど同じような退陣劇を見てきたことでしょうか。セブンHDの最高経営者、鈴木敏文氏(83)の在任期間があまりにも長く、「いつまでやるつもりなのか」と、懸念していましたら、ドラマ仕立ての最後となりました。すぐれた経営者でも逃れられない宿命の罠があるのでしょう。

私は以前、鈴木氏をよく存知あげておりました。10数年前、倒産状態の出版社に出向することになり、すでにセブンの経営で絶頂期に入っていた鈴木氏に助言を求めるため、訪ねました。出版取次ぎ大手のトーハンに入社した経歴があり、社外監査役もしておりましたからね。

ご自分の経験から、出版社においても単品管理が大切であることを強調されました。コンビニでは何万点もの商品を店頭に並べ、売れ行きや在庫のデータをリアルタイムで掌握し、売れ筋と死に筋を見分け、配送するビジネスモデルが確立しておりました。 配送車のタイアの減り具合まで試算し、商品ごとの原価管理に生かしているとのことでした。

 

データを駆使した単品管理

出版社も扱う点数の多さ、在庫管理の難しさではコンビニ経営と共通したところがあると、悟ったのです。一点ごとの印刷代、用紙代、製本代、印税、返品、人件費、広告費などから利益率を割り出し、データを社内で共有するよう徹底しました。

しばらくして挨拶に行き、データ管理の極意を聞きました。「データが集まってくるころには、状況が進んでいるので、データを信じきると、間違える。データの先をどう読むかだ」。なるほど並みの経営者とは違うと思ったのです。

そんな鈴木氏も、後継者異の育成、自分の在任期間のあり方、独裁の弊害の有無などについては、合理的な考え方にたどり着くことができなかったのですね。客観化できる商品管理は合理的な規準を編み出せても、主観から逃れられない自己管理は非合理的な行動をとるのですね。

 

後継者が育つと切る

「育たなかった後継」(8日の朝日新聞)という評価ですか。違うと思いますよ。後継者が育ってくると、独裁的経営者はその人物を切るか、外すのです。今回も退任案を告げられた井坂隆一社長(セブン・イレブン)は5期連続で最高益更新の実績があります。ワンマンにはそのことが耐えられないのです。退任の理屈を並べたてたところで説得力はありません。目と頭が曇るのです。

社長交代の人事案(鈴木氏案)は、取締役会(15人)の過半数を得られずに否決されました。反対6、白票2で、8人が反対ないし棄権でした。ワンマン会社で社長人事に反対するというのは勇気のいることです。そのことはイエスマンでない後継者が育ちつつあったことの証明です。

指名報酬委員会の社外役員2人は立派です。ワンマン企業ほど社外役員は、トップと気脈を通じた人物が就任することが多く、いざという時に役に立ちません。今回は違いましたね。鈴木氏の振る舞いによほど問題があったと見たのでしょうか。鈴木氏が自分の息子を役員にし、異例の出世街道を走らせていました。よくいう公私混同で、思考停止の状態に陥るのですね。

 

トップが後継を指名することの弊害

もっとも指名委員会の機能が働くことも働かないこともあります。欧米流の経営システムのソニーが後継者の交代を2度も3度も間違え、今日の低迷を招きました。大半の企業では、退任するトップに、後継者を選ぶ権限を与えていることでしょう。

企業はどろどろした人間の集団ですから、自分の都合のいい後継を選び続け、どこかでつまずくことがいかに多いことか。スムーズに社長交代を済ませていれば、鈴木氏はセブンの中興の祖として、経営の神様の扱いを受け続けたことでしょう。神様になるか、人間失格となるかの違いは大きいようで、以外に小さいのかもしれません。

今回の人事抗争をみて、多くのワンマン企業のトップは何かを感じたことでしょう。「自分はそんなことがないよう自戒しよう」なのか、「そんなことが起きないようガードを固めよう」のどちらかでしょう。恐らく反乱を起こさせないようガードを固める企業のほう多いと思います。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

 

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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