海外マンガフェスタ2015

毎年恒例となった海外マンガフェスタ。東京ビッグサイトで、アニメ・マンガ教育国際シンポ「世界の、そして未来のマンガ・アニメ」を開きました。

※参考:去年までの模様
「マンガの人材育成と国際連携」
http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2015/03/blog-post_9.html

「世界のデジタルマンガ潮流」
http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2015/03/blog-post_16.html

「海外マンガフェスタ2013」
http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2013/12/2013.html

今回の登壇者はちばてつやさん、手塚プロダクション松谷孝征社長、日本工学院佐藤充カレッジ長、そしてフランス・トゥールーズ漫画レジャー学校のクレール・ペリエ校長。ぼくが司会で、マンガ・アニメの人材育成について議論しました。

その前に。
シンポに先立って、同会場内にて「文部科学省 アニメ・マンガ人材養成産学官連携事業」委員会を開催しました。人材育成プロジェクトの現状を共有したんです。産学連携で教育する企画としてぼくが委員長として進めているものです。

アニメプロジェクトは日本工学院、デジハリなど14校、ぴえろ、ワコムなど7社、そして動画協会などが参加。マンガは京都精華大学、日本デザイナー学院など14校、講談社、小学館、コルクなど10社、日本漫画家協会、デジタルマンガ協会などの組織が参加しています。

アニメ分野では、収入・職場環境の改善が課題とされ、産業界としての人材キャリアアップ像の提示が求められていました。キャリアアップ体系化と制作学習システムの共同開発が進められています。

動画協会の松本専務理事は、職域の育成に加えて、子どものアニメ制作教育も進める考えを表明しました。賛成!
マンガ分野は、マンガ家や出版社のデジタル作画状況、教育機関のデジタル作画教育の状況を把握しながら、カリキュラム、教科書、検定制度などのシステムを開発しようとしています。その上で、アニメ・マンガの人材を育成すべく、指導者の育成、カリキュラムの開発、ビジネスマッチング、キャリアアップセミナー、検定制度の導入といった施策を進めようという話になりました。

さてさて、これを自立運営するとなると大仕事。
やりますか。この腹案を胸に、シンポ会場に向かいました。
このシンポの前日、パリでテロ事件が発生し、冒頭ぼくは1分間の黙祷を会場のみなさまと捧げました。

 “En hommage aux victimes des terribles attentats qui ont frappé Paris vendredi 13 novembre,  une minute de silence sera respectee en ouverture de festival.”

冒頭、手塚プロ松谷さんが、鉄腕アトムの1963年版、1980年版、2003年版を見せながら、技術がモノクロ、カラー、CGへと移ってきたこと、そしてその土台となるキャラクターとマンガが不変であること、不易流行を指摘しました。
ではそれをどう教えるのか。
文星芸術大学で教鞭をとっておられるちばてつやさんは、「マンガは教えるものではない、ぬすむ・まねぶ」とおっしゃる。松谷さんは、手塚さんもそう言っていたと指摘しました。

では、ちばてつやさんはマンガ家を志望する学生とどう接しているのですか?
「学生たちとは、一緒に作る。こんなマンガ、アニメ、ゲームが出てきたね、と情報を共有して、遊んだり、作ったりするんです。マンガを描く子には引きこもりが多い。学校に出てきただけでホメてあげて、キャッチボールしたりするんです」

学生たちは、ちばてつやさんとキャッチボールすることのありがたみを理解しているのでしょうか!

「コンピュータを作って描く、それをスマホに発表する。マンガも紙からデジタルへと変わってきました」と言って、ちばてつやさんは今取り組んでいる「モーションコミック」を紹介してくれました。

紙に描かれたマンガを、コマごとにアニメ的に動かす技術です。女性二名ユニットのマンガ家・姫川明さんが描いた伝説のマンガ「ゼルダの伝説」をモーション化し、ゲーム音楽つきで見せてくださいまして。

100年を経たマンガ表現がデジタルでモーションの命を得て、新しい表現となる。それがスマホ向けコンテンツとして、世界に配信される。表現も広がるし、ビジネスも広がりますね。

松谷さんは、フランスと共同制作中の次作アトムも紹介くださいました。トゥールーズ校のペリエ校長も日仏共同での人材育成を展望しながら、マンガの持つグローバル性を強調していました。

ちばてつやさんは、前年のこのシンポで、やなせたかし先生の「マンガが読まれている国は平和だ」という言葉を引いて、マンガのもつ平和とグローバルの力を強調しました。ぼくは改めてその言葉思い起こします。

マンガ・アニメの人材育成を通じて、グローバルな平和に貢献したい、と申し上げて、シンポを締めくくりました。

また来年。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年4月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。