遺跡保存かショッピングモールか

パレスチナのガザ地区で発見された初期キリスト教会のビザンチン教会跡にショッピングセンターが建設中だ。バチカン放送独語電子版がカトリック系通信社フィデス(Fides)の報道として伝えた。ショッピングセンターの建設中に、少なくとも1500年前の同教会跡が発見されたが、建設続行のためにブルドーザーで破壊されたという。

そのニュースが伝わると、パレスチナのキリスト信者たちから怒りの声が出ているという。ヨルダン川西岸地区のアングリカン(聖公会)系教会のイブラヒム・ナイロウツ神父はパレスチナ自治政府宛てに抗議の書簡を送っている。

一方、イスラエルのメディアは「ショッピングセンターが建設中の敷地にイスラム寺院やシナゴーグや古代の遺跡などが見つかっていたとすれば、今回と同じようなことが行われただろうか」と問いかけている。その論調には、ガザ地区の少数宗派キリスト教会関連の敷地跡だったから破壊された、といった批判が含まれていることは明らかだ。

歴史的遺跡や建物を破壊するといえば、われわれは直ぐにイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の蛮行を想起する。ISは昨年8月21日、シリアで西暦4世紀ごろ建立された修道院マール・エリアン( Mar Elian )をブルドーザーで破壊した。シリアの砂漠に立つ修道院はこれまで多くの紛争や戦闘を目撃してきたが、生き伸びてきた。しかし、ISは修道院破壊の理由を、「同修道院には3世紀のキリスト教の殉教者聖人エリアンが祭られている。これは神の神性を蹂躙するものだ」と説明している。要するに、「偶像崇拝」というのだ。

ISはイラク内の占領地でも世界的遺産を次々と破壊している。ISは昨年2月、イラク北部のモスル博物館に収蔵されていた彫像を粉々に破壊し、古代ローマの主要都市ハトラでも破壊を繰り返した。同年4月には、イラク北部にある古代アッシリアのニムルド遺跡を爆発した、といった具合だ。

もちろん、ISの蛮行とガザ地区の教会跡にショッピングセンターを建設することを同列に扱うことはできない。ISは破壊魔であり、何も建設しない。ガザ地区の場合、ショッピングセンター建設中に教会遺跡が発見された結果だ。想定外だった。

人類の歴史を記した遺跡を保管することは現代に生きている人間の責任だ。だから、歴史的遺跡を可能な限り保管すべきだが、昔の遺跡や建物を破壊し、その敷地に新しい建物や施設を建設することが全て良くないとはいえない。現在、生きている人間の生活を改善するためにどうしても必要なケースが考えられるからだ。また、全ての歴史的遺跡を完全に保管することは物理的にも出来ない。だから、歴史家、遺跡専門家たちを交えて慎重に話しあわなければならないだろう。遺跡を移動させるとか、その一部を保管するといった処置も今日、可能だからだ。

明確な点は、イスラエルとパレスチナ間で紛争が続いている時、少数宗派の遺跡破壊は紛争を煽る危険性があるということだ。ガザ地区の場合、ブルドーザーで教会跡を破壊する前に、ショッピングセンター建設側はその地域の少数宗派のキリスト信者たちと話し合いを持つべきだった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年4月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。