尖閣有事で米軍を当てにするなとの警告

日本が自分で守るのが先

日中対立の象徴である尖閣諸島で軍事的な有事が発生した場合、米軍が日本の支援にかけつけ、一緒に戦ってくれると信じている人は多いはずです。実際は、そんなに甘くないみたいですね。

2014年4月、日米首脳会談でオバマ大統領が「日本の施政権下にある領土は、尖閣諸島を含め、日米安保5条の適用対象になる」と、明言しました。歴代大統領は尖閣が安保条約の適用対象だと、明言することを避けてきました。従ってオバマ大統領の発言に「これで一安心」と日本人は思ったことでしょう。

社説で新聞論調を振り返ると、産経は「両国の強い絆が確認された」、「挑発を繰り返している中国への抑止力になる」と、喜んでいます。読売は「強固な日米同盟が中国への抑止力になる。さらに安保法案が成立すれば、自衛隊と米軍の協力は大幅に拡大する」と、評価しています。

米国からの言質で安心するな

日本側は「尖閣を安保条約5条の対象地域」の言質を米国からもらうことに腐心してきました。乱暴で軍事力を振り回す傍若無人の中国に対しては、確かに有効です。それがどうも様子が違うらしいのですね。米大統領選の予備選を見ていると、日韓の核武装容認、基地負担の増額要求など、無責任な発言も飛び出しています。「自国のことはまず自国でやれ」の意味でしょうか。

尖閣問題で日本は甘い認識を捨てろとする警告が聞かれます。「戦略理論で世界的な名声を確立した人物」、「近代西洋の戦略論に革命を起こした人物」と、訳者が称賛するエドワード・ルトワック氏が最近、「中国4.0 暴発する中華帝国」という著書(文春新書)をだしました。日本にとって耳の痛くなる忠告が多く登場します。

中国4.0 暴発する中華帝国 (文春新書)
エドワード ルトワック
文藝春秋
2016-03-18

 

ワシントンにあるシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)の上級顧問、ホワイトハウス国家安全保障会議メンバー、国防省長官府勤務などと、ありますから、米国の国防政策の本音に通じている人物でしょう。

小島の防衛まで面倒見切れない

「日本は小島まで米国に守ってもらうことまで期待すべきでない。日本の離島を守るための現実的な準備を誰の助けを借りずにしておかなければならない。米国は現状では、日本の島の防衛まで面倒をみきれない」

 

「米国という同盟国は、日本を守る能力と意思を持っている。守るというのは、日本の根幹としての統治機構システムを守るということだ。小さな脅威は日本が自らの力で対処すべきなのだ」

日本本土への侵攻など、大規模な日中衝突には「米軍は共同で戦う用意がある」と、著書で強調しています。それに対し、日本にとっては日中対立の象徴である「大きな島」でも、米国からみると「小さな島」は自分で対処しろ、ということなのです。ここが日米の基本的な認識のギャップなのでしょうね。

なるほどと思わせるのは、「日本が小さな島すら自分で守れないこと、このような独立的な機能を持たないことになれば、むしろ日米関係を悪化させる」とまで、ルトワック氏は指摘していることです。「日本はすべての安全保障を米国に依存するのか」という不満が米国内で高まるというのです。恐らくそうでしょうね。

大統領予備選でも潮流の変化

大統領予備選からうかがわれれる米国社会の潮流は、何から何まで米国にやらせるな、ということでしょう。「オバマ大統領の約束とは違う」と批判してもしょうがないのです。トランプ氏が大統領になれなくても、新しい議会構成、米国世論は米国の役割と同盟国の負担の見直しを迫るものになるでしょう。

そもそも安保条約第5条には、「日本の施政権下にある領域に対する武力攻撃が、平和と安全を危うくするものであることを認め(る場合は)、自国の憲法上の規定、手続きに従って対処する」となっています。「憲法上の規定、手続き」とは、議会の承認の意味とされています。議会が尖閣への出動を認めなければ、米軍は動けないのです。

ではどうするか。尖閣有事の際について、ルトワック氏は「海上保安庁、海上自衛隊、陸上自衛隊、航空自衛隊が即応できるように、準備をしておくことだ」と忠告しました。接岸拒否、制空権の掌握、上陸した特殊部隊による排除などです。「それがまず自分で守る」ということなのでしょう。尖閣防衛は、まず個別的自衛権の行使でできるところまでやれ、ということでしょう。

どうも日本側の尖閣問題への対処は、米側トップの発言の解釈が中心で、それで安心してしまう傾向があります。大統領選の行く方、米国議会の動き、世論の流れを掌握し、甘い期待を戒めることです。大統領選の帰趨次第では、ルトワック氏の警告が現実味を帯びてくるに違いないと、思います。実際に日中の本格的な衝突が長期化したら、中国の出方次第では、日本だけで対応できなくなることはいうまでもありません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年4月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。