「旧竹島」でマイクログリッド。韓国のしたたかさ --- Nick Sakai

寄稿

日韓で領土問題となっている竹島。その北西わずか90Kmに韓国領鬱陵(ウルルン)島「旧日本領旧竹島」がある。日本海に浮かぶ直径10km・人口1万人弱のこの島で、韓国が着々と進めている「世界初」のプロジェクトがある。日本のマスコミはまだ報じていないから、この記事はスクープといってもいい。

今、世界は「離島型マイクログリッド」の商用化にしのぎを削っている。世界の無数の島々に太陽電池・蓄電池・電気自動車を組み合わせたシステムを作って電力を供給する、というのがそのビジネスモデルだ。

離島は本土と分断されているので、大きな発電所から送電線を引っ張ってくることがでない。だから電気を使うには、島に小さなディーゼル発電所を作って小さなネットワークを作るしか無い。しかし、コストは割高だ。燃料を陸から船でわざわざ運んでこなければならないし、専門の運転員を配置しなければいけない。

太陽電池を置いて無人で運転すればこの手間が省けるというわけだ。走行距離に限界がある島の道路特有の問題は、充電器から離れられないEVにはむしろアドバンテージになる。ガソリンを運ぶ必要もなくなるし、バッテリーは余った電気を貯める役割を果たすし、一石三鳥だ。

だから理論的には採算が採れるはずだ。もしこのBOPビジネスが確立されて世界に普及すれば、無電化村で暮らす貧しい人々に大きな便益をもたらす。さらに莫大な利益を得られるのは、リチウムイオン電池・太陽電池・EVメーカーだ。

では、その実用化に近い位置にいるのは誰か?商才があるのはテスラだ。アメリカ本土で太陽電池・家庭用リチウムイオン電池・電気自動車をセット販売して いる。当然、テスラは考えている。実際に、昨年のパリCOP21で関連イベントで提案もしている。(拙稿テスラが日本の自動車・電機メーカーを破壊する日)しかし、彼らの得意な「アメリカの一軒家」から「人口1万人の集落」に応用するのは技術的にそう簡単でないし、途上国での事業展開の地の利もない。

では、技術的にトップを走っているのはどこか?現時点では恐らく日本だ。

人口5万人の沖縄県宮古島ではもう6年も前から4千KWの太陽光発電所や4千2百KWの風力発電所、それに蓄電池を設置して島を丸ごとスマートグリッド化してしまった。今も実証試験を繰り返し、データを蓄積している。さらに去年、その進化系プロジェクトが伊豆大島で開始された。ここではEVも繋がった。

しかし、世界的には「宮古島」も「伊豆大島」も全く 知られていない。このビジネスに興味を持っているアジアの人々に「世界で最先端の島はどこか?」と尋ねると、ほぼ全員が「韓国の済州島」と答える。

韓国は、他の国が始めた事業にキャッチアップして、そしてその成果をことさら喧伝することが大変得意だ。徹底的に先行事例を研究して、財閥系資本が圧倒的な規模での設備投資を行い、先行する企業をあっという間に追いつき追い越す。それを政府が全面的にバックアップする。そうしたことに長じている。半導体・液晶TV・スマホなどがその例だ。そして今LG化学は自動車搭載蓄電池でパナソニックを猛追している。逆に日本は「ばか」が付くほど真面目で、実験ばかりしていて次のステップ(投資)に踏み出さない。大きくリスクをとっ てお金を張ることが苦手だ。結果的に戦力の逐次投入となる。倍々ゲームに追いつけない。

今、サムソンSDIとLG化学は、「離島マイクログリッドのブランド化」に全力を注いでいる。「済州島」はいわばそのショーケースだ。韓流ドラマさながらに、マイクログリッドの聖地としてプロモートする。しかし人口55万人のこの島を丸ごとハイテクで固めるのはいささか荷が重すぎた。中身が伴わなければ早晩失望を招く。

そこで、もっと小さな島を第二のショーケースにしようと考えたのだろう。人口1万人弱、宮古島の人口の5分の1のウルルン島で実証段階を飛び越えて、いきなり「世界初の完全に商用化したモデル」を作りあげてしまった。

では、「実証試験」と「商用化」には一体どんな違いがあるのだろう。商用化には、民間の企業が自ら資本を投入して、発電所を作り、電気を買い取る会社と交渉して、高く売る必要がある。リスクをとり、コミットする投資企業の出現が必要だ。

ではウルルン島の「投資企業」はどこかというと、LG化学だ。つまり自社の蓄電池を使いその性能をアピールするための投資と考えてよいだろう。電気を採算点以上の高水準で買い取る会社はどこか?それは国営の韓国電力公社だ。

これで純粋な「世界初の商用化プロジェクト」と言えるかどうかは、読者の判断に委ねたい。しか し、ただひとつ言えることは、韓国は、この「世界初のウルルン島」をショーケースとして、韓国製品のすばらしさとプロジェクト遂行能力の高さを世界にアピールし、これから毎年多くの視察者が世界各国から訪れるだろうということだ。日韓で領土問題となっている竹島からわずか90キロしか離れていないこの離島に。

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