頭の整理。ロシアに増産余力がなく、サウジだけ増産余力があるがするはずもなく、増産するとすれば制裁が解除されつつあるイランだが、実際の増産のペースは遅々とした歩みで、値段がちょっと上がるとシェールの採掘施設の一部が採算ラインを超えるので細かく稼働が始まり、価格上昇の頭打ち要因になる、というのが2014年半ば以降の状況でしょうか。
ただ、ここで岩瀬さんが「増産凍結」よりも「生産凍結」の語を使いたいというのが、なんとなく感覚としてつかめない。確かにfreeze on outputは「生産凍結」なのだろうが、日本語で(エネルギーの専門家ではなく一般的な人が)「生産凍結」と聞くと、操業そのものを止めて、減産にすらなる印象さえ受けかねない。
もしかしたら、エネルギー専門家から見ると、石油の生産を現状維持程度にするだけでも次々と手を打っていて始めて可能になるのだし、蛇口をひねるように簡単に増産したり止めたりできるわけではないので、「生産凍結」の方が現状にキープしつつ将来の価格上昇に持っていくための専門家の議論として、色々な意味を込めて適切なのかもしれない。
それでもやはり、「増産凍結」の語の方が、岩瀬さんが解説してくれているような、ロシアに増産余力がない中で、合意できるところで合意しようとする、この交渉の元来の枠組みを表すためにはわかりやすい語なのではないかと思う。
しかも、この記事の後に起こった輸出国会議の決裂の際に、ムハンマド副皇太子のように「イランが増産するならうちも増産するぞ」と、専門的な経済合理性からは考えられないことを政治的な目的でやる(と脅す)指導者が出てくるとなると、やはり「増産凍結」の方がわかりやすいのでは?と思ったりするが、それは私が根本的に石油問題に慣れていないからかもしれない。
今度タンカーでも乗ってみるか。
編集部より:この記事は、池内恵氏のFacebook投稿 2016年4月19日の記事を転載させていただきました。転載を快諾された池内氏に御礼申し上げます。