日本の「商社」がテスラに駆逐される日 --- Nick Sakai

2016年04月25日 06:00

月刊誌『文藝春秋』5月号の名物コラム「丸の内コンフィデンシャル」は、三井物産と住友商事の合併の可能性を報じました。数年前まで我が世の春を謳歌していた大手商社ですが、急激な資源安が収益を圧迫しています。業界ツートップの三菱商事と三井物産は3月下旬、相次いで業績見通しの下方修正を発表し、2016年3月期は両社とも発足以来初の赤字に転落する見通しです。(三菱が1500億円、物産が700億円の赤字見通し )。住商は2015年3月期で731億円の赤字に転落。総合商社「冬の時代」の到来を受け、再編の観測記事が出たわけです。

東西冷戦後の世界共通市場化、グローバリゼーションのなかで資源をがぶ飲みする中国が出現しました。商社は、エネルギーや鉱物資源などの「山元」にこぞって投資し、自社の持つ販路を活用し、高値で売り続けるというモデルを確立したのですが、中国経済の変調とともに一気に裏目に出た格好です。

資源に傾注する前の商社は、日本のモノ作り産業とウィンウィンの関係を築いていました。「裸足のアフリカの未開人に靴ひもを売りにいく」といった武勇伝など、日本の工場で作ったものを売りさばく「日本株式会社の営業部門」の役割を果たしてくれて いました。日本の技術が詰まった発電所や化学プラントを世界に売り込んでくれたのも商社です。でも、バブル経済の崩壊とともにその役割を放棄して資源ビジネスに行ってしまいました。

困ったのは製造業です。「いいものを作りさえすれば、後は商社が仕込んで、売ってくれる」と安心しきって、自分はモノ作りに専心していたのに、売ってくれる人が突然いなくなってしまった。でも自分では売るノウハウはない。中国・韓国・台湾に捲られる。だから日本産業空洞化の一因は商社にもあると言っても過言ではないでしょう。いいモノであっても、きちんとそれをパッケージ化して、販売戦略に長けたプレーヤーがいないと売れないという教訓です。

今、世界商戦で最も熱い商材のひとつは、リチウムイオン電池です。米国では、イーロンマスクの指導力の下、テスラが日本の商社さながらその「販売チャネルを握る」戦略を着実に進めています。

リチウムイオン電池の用途は二つあります。一つは自動車です。リチウムイオン2次電池はパソコンや携帯電話機で商用化されましたが、2000年ごろからは自動車がその牽引役となりました。1台のEVに搭載する電池は、携帯電話機用の数千台に相当する容量となることから、数量面の市場全体におけるインパクトが大きいのです。テスラモーターズは電気自動車メーカーとして電池の販路を確保しています。

もう一つは電力用です。今月、日本でも電力小売りが自由化されましたが、これを契機に電力供給 の在り方が見直されています。従来は発電施設を持つ大手電力会社が送配電を介して供給するだけでしたが、これからは新規参入の電力事業者が2次電池に蓄えた電力を必要に応じて太陽光発電なども織り込んで低コストで消費者に供給する新たなシステムが出てきます。また電線の敷設が困難だったり、今回の熊本地震のように災害などで電線に被害があったりした場合には、蓄電した2次電池を搬送して電力を供給するといった方法もあります。このため、今後10年間に大型のリチウムイオン2次電池が電力市場に急速に広がる可能性が高いのです。

ここでもテスラは動いています。なんと昨日(4月23日)テスラ・エナジーはオンライン直販サイトで大規模リチウムイオン電池(Powerpacks)の販売を開始しました。サイトはアップルオンラインショップさながら、ボタンで容量を選択して、ワンクリックで電池お買い上げというとってもおしゃれな仕組みです。しかも日本での小売価格のほぼ半額(電池単体で見ると1Kwh約5万円)です。

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その電池を製造しているのはパナソニックです。しかし、韓国のLG化学も中国のBYDも猛烈な売り込みを仕掛けているので、テスラとしてはある程度質の整った電池を安価で大量に供給する企業を時々で簡単にスイッチできるのです。IPhoneの部品調達がそうであるように。何せ、「パナソニック」ではなく「テスラ」ブランドで電池を売っているのですから、消費者はIphoneの中の部品の製造業者は気にしないのです。だから、いいものをたくさん作っても、販路を抑えたプレーヤーにいいように買いたたかれて、儲けの大部分は持ってかれてしまうのです。

しかも、テスラは誰も考えもつかなかった、「自動車」と「電力設備」という全く異なる市場 での販路をダブルで抑えた。その相乗効果は計り知れないものがあります。

業界を超えて、製品のよさを見極め、パッケージで売る。かつて日の丸商社のお家芸だった秘伝をテスラがやすやすと手に入れてしまいました。この20年、資源バブルにかまけていた商社の失ったビジネス機会は計り知れないものがあります。

Nick Sakai  ブログ ツイッター

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