マッチングの経済:"Who Gets What"

Who Gets What ― マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学
アルビン・E・ロス
日本経済新聞出版社
★★★★★



最近、ITの世界で流行しているバズワードは「シェアリング・エコノミー」だが、これは不正確だ。UberにしてもAirBnBにしても、各ユーザーは一つの車や部屋を専有しているのであって、シェアしているわけではない。これはむしろ今までは互いに見えなかった需要と供給を可視化してマッチさせる、マッチング・エコノミーというべきだ。

これはインターネットの初期からオークション・サイトなどで実現してきたが、価格というパラメータがあるときは、マッチングは容易だ。困るのは、著者が研究した臓器移植や研修医など、価格なしで最適なマッチングをどうやって実現するかだ。そのアルゴリズムについての研究で、彼はシャプレーとともにノーベル賞を受賞した。

…というとむずかしそうなので、具体的な例をあげよう。本書でも取り上げている青田買いだ。日本の就活でもみられるように、優秀な学生を採用するには、企業はなるべく早く内定を出そうとし、学生もなるべく早く就活を始める。その均衡は、大学入学直後に内定を出すユニクロのような行動だ。

こういう「市場の暴走」は、アメリカの就職戦線でもみられ、いろいろな紳士協定が試みられたが、失敗した。しかシャプレーが1962年に提案した受け入れ保留アルゴリズムを使えば、企業にとっても学生にとっても最適の組み合わせを実現できる。これは数学的に厳密に証明されているが、簡単にいうと次のようなものだ:

  1. 企業は学生の中から、トップランクの学生に内定を出す。学生は複数の内定の中から、希望に近い企業の内定を暫定的に受け入れて保留し、それ以外の内定はすべて断る。
  2. 1の段階で学生に断られた企業は、次のランクの学生に内定を出す。学生は保留している他の内定と比較して、希望に近い企業の内定を暫定的に受け入れ、他は断る。
  3. 以上のような交渉はすべてクリアリングハウスでモニターされ、新しい内定を出す企業がなくなった段階で、学生の受け入れた企業を最終的な就職先と決定する。

これはゲーム理論でナッシュ均衡を計算するアルゴリズムと似ているが、均衡は必ず存在し安定している。このメカニズムを実用化するには、すべての企業と学生がこのクリアリングハウスに情報を登録する必要があるが、今の就活サイトがそれに使えるかも知れない。

アメリカでは、現実に研修医のマッチングに使われており、日本の企業も無意味な就職協定を繰り返すより、こういうマッチング理論を応用してはどうだろうか。他にも、ベビーシッターや介護のマッチングなど、いろいろな用途が考えられる。少なくとも厚労省の規制より効率的であることは間違いない。