世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)が主催した会議「デジタル・メディア欧州」(ウィーン、4月20日―22日)に参加する機会があった。これに合わせ、ウィーン及び独ベルリンの新聞社を視察したが、どこの国でも電子版からいかに収入を得るかで格闘していた。
会議の前に書いた、英国の状況を紹介してみたい。
英国のメディアが使う言語は国際語となった英語だ。ネット上には英語の情報があふれている。BBCが無料のニュースサイトを大きく展開している上に、米国の新聞社サイトは英語のニュースサイトとして大きなライバルとなる。そんな中での各紙の闘いである。
紙版廃止、有料化、第3の収入
ネットでニュースを読む習慣が定着する中、紙の新聞がいつかは消えるのではないかと言われていたが、先を暗示するような動きが英国で3月末にあった。
英全国紙インディペンデントとその日曜版インディペンデント・オン・サンデーが、それぞれ3月26日と20日、紙版の最終号を発行したのである。今は電子版のみになってしまった。紙の終えんを示す象徴的な出来事だった。
新聞界は、デジタル時代になってビジネスモデルの転換を迫られている。英国の新聞各紙は積極的に電子版ニュースを拡充してきたが、ここにきて、いよいよ本格的な変貌を遂げる必要がでてきた。
有料化の効果は
英新聞界の生き残り策の1つは電子版の有料化だった。
この点で最も成功した新聞は経済紙フィナンシャル・タイムズだろう。経済紙という強みを生かし、一定の本数のみを無料で閲読できるが、それを超えると有料購読者のみが閲読できる「メーター制」を導入し、着実に購読者を増やした。1年前からは1ポンド(約160円)で1か月間記事を閲読できるトライアル制を展開し、2015年末時点で購読者を78万人(紙版と電子版のみの合計)に増加させた(前年比8%増)。電子版のみの購読者は56万6000人で前年比12%増。有料購読者の3分の2が電子版での購読者だ。
一般紙で電子版有料制を導入したのはタイムズとその日曜版サンデー・タイムズだ。メーター制ではなく、購読者でなければ原則一本も読めない完全購読制を採る。購読者になるとさまざまな文化的イベントに無料あるいは割引価格で参加できるようになる。
3月から別々だった両紙のウェブサイトを1つにし、平日は午前9時、昼、午後5時の3回のみ更新するように改めた。週末は昼と午後6時のみ更新となった。読者が速さよりも質を求めていることが分かったためだ。
2010年の導入時は先行きが危ぶまれたが、今年2月時点で、両紙は合計で40万1000の有料購読者を持つ。内訳は17万2000が電子版のみで、22万9000が紙版のみあるいは紙版と電子版のセットでの購読者という(発行元ニューズUK社発表)。前年比で2.2%増だ。タイムズの場合は、紙の部数が38万9051、電子版のみは14万8000で、合計では53万7051部となる。ニューズUK社は電子版が成功したと受け止めている。
タイムズは「高い壁」
しかし、「有料の壁」を作ったことで、月間読者数(紙版読者、電子版読者の合計)では低い位置にいる(ナショナル・リーダーシップ・サーベイ調べ)。2014年でタイムズの読者は490万人だったが、ほかの高級紙はその倍以上だ。インディペンデントは1040万人、ガーディアンは1630万人、テレグラフは1640万人だった。
高級紙の中で最も紙の発行部数が多いテレグラフは2013年にメーター制を導入したが、購読者数を公表していない。
インディペンデント、ガーディアンは過去記事も含め、すべてを無料でウェブサイトに出してきた。
サン、デイリー・メールなどの大衆紙もサイト上で無料で記事が閲読できるようにしている。サンは一時、有料制を導入したが思うような数の購読者を得ることができず、無料派に戻った。
編集部より;この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2016年4月24日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。