「邦画はつまらない」ではなく「映画館がつまらない」

松本 孝行

Twitter上で少し炎上気味になっていた話題があります。それが「邦画はレベルが低い」という意見に、実際に邦画を作っている人が反論したことがきっかけでした。制作されている方の反論は「現場で味噌汁を作っている」ということが製作者側のプライドなのか等、多くの人に誤読させる結果になってしまいました。ですが正直なところ邦画はレベルが低いというとそうとも言えず、むしろ別の問題があるのではないでしょうか。

映画の入場者数は低空飛行を続けている

邦画が面白い・面白くないにかかわらず、映画を見に行く人そのものが横ばいなのです。こちらの記事が詳しいのでぜひご覧頂ければわかりやすいでしょう。映画館の来場者数は1億4~6千万人あたりを行ったり来たりしています。特に気になるのがリンクにも書かれていますが1つの映画あたりの平均来場者数が減り、公開数でカバーしているという状況です。

ではみんな映画を見ていないのか?というとそうではありません。例えば有料動画サイトやDVDのレンタル・購入などで見ている人は多いでしょう。私が子供の頃はテレビで金曜ロードショーなどがやっていた時に、よく映画を見ていました。映画館で新規公開された映画ですら「ロードショーになるのを待とう」としていたこともあったくらいです。

ちなみに映画館には行かない私も、有料動画のhuluを利用しています。huluの中では邦画でもよくできたものは良いコメントがついていますし、評価も高いものが多くあります。一方で洋画でも辛辣なコメントが書かれているものも少なくありません。人気順で見るとアニメや洋画も多いですが、邦画もそれなりに検討しています。決して邦画に視聴者が満足していないわけではないことがわかります

ということは「邦画はつまらない論争」は「映画館がつまらない」と言えるのではないでしょうか。

映画を見ることに新しい価値が必要

今も昔も映画館はほとんど代わり映えがありません。大きなスクリーンと大きなサウンド、そしてみんなで揃って同じ映画を見るというスタイルです。広島市民球場でが新しくなって設置された「バーベキューをしながら野球が見れる」とか「寝そべって見ることができる」というようなシートもありません。このような昔から変わらずに同じようなスタイルで映画を見ることに、今現在価値を見出す事ができるか疑問です。

むしろ昔の映画館のほうが良かったという人も少なくありません。確かに私もそう思うこともあります。昔は入場料さえ払えば何本でも映画を見ることが出来ました。子供の頃はドラゴンボールとドラえもんやその他のアニメなど、3本建てで映画を見ていたこともあります。1回で3本見れるなんて非常にお得だなと今になって思います。

今や有料動画もあればWOWOWのような有料放送もありますし、DVDもレンタルできる時代です。こんな時代にお金を払って映画館に足を運び、知らない人たちと同じ方向を向いて映画を楽しむという、昔ながらの楽しみ方しか提供していないというのはおかしな話です。もっと様々なスタイルで映画というコンテンツを楽しめなければ、そもそも見る人も増えないでしょうし、見ても楽しいと思えないでしょう。

良い物を作れば売れる時代は終わった

よく日本の製造業で言われるのが「良い物を作れば売れる時代は終わった」というフレーズです。昔は良い物を作ればそれだけ売れる時代でしたが、今は良い物を作っても必ずしも売れるわけではありません。商品の見せ方、流通方法やマーケティングが重要になっています。また同じような商品であっても、アップルiPhoneやテスラの電気自動車のような「その商品・企業のブランド価値」が売れ行きを左右する時代です。

おそらくそれは邦画でも同じでしょう。制作現場の人たちが頑張って作った映画で、良い物が出来たとしてもそれが必ずしも一般大衆から支持されるとは限りません。製作者サイドの方が嘆いているのも分かりますが、おそらく「邦画はつまらない論争」というのは邦画そのものの質の問題ではなく、コンセプトとか映画を見るという文化やスタイルの問題ではないかと私は思うのです。

もちろん価格を安くするという方法もあります。毎日1000円や800円で見れるなら、見る人も多くなりますしコスパが良くなりますのでつまらないものでも批判は少なくなるでしょう。「新しい価値を提供する」か「安売りをする」か、この二つが邦画はつまらない論争を終わらせる事ができる方法かも知れません。