指原莉乃さんに発言を撤回して欲しいです --- 田中 紀子

寄稿

昨日、フジテレビ人気番組の「ワイドナショー」で、バドミントン闇カジノ事件について取り上げられました。昨日は、ゲストに安倍総理もいらしていて、またまた話題をさらっておりましたので、ご覧になった方も多いはずです。

総理は、バドミントン闇カジノ問題からIR(カジノ)法案についても触れ、そしてそこからギャンブル依存症の問題があることも言及して下さり、感謝の極みです。

けれども私はあの番組の中で、とても残念なことがあり、今日はそのことを書かずにはいられません。
それは「さっしー」こと指原莉乃さんの発言です。

かねてより私は、AKB好きを公言し、その中でも指原莉乃さんがすごい!と、思っておりました。
以前、そのことをブログに書いたこともあります。
さっし―に学ぶ

でも昨日の指原さんの発言には、思いやりの心が感じられず、独断と偏見に満ちていて、とても残念に思いました。

その発言とは、桃田選手に東京オリンピックを目指して頑張って欲しいという流れになった時に、指原さんが、「でも、誰も応援しないですよね」と発言したことです。

この発言には正直、唖然茫然とし、そしてその想いはすぐに憤りに変わりました。

指原さん、この国はギャンブル大国です。

そしてパチンコだけで24兆円もの市場規模を誇りながら、ギャンブル依存症対策について、殆ど何も行われていない国です。そして、ギャンブルをすることで「ギャンブル依存症」という、自分ではギャンブルをコントロールすることができなくなる、病気があるのです。

依存症は日本社会では「そんなバカな!」と一笑に付され、なかなか理解されません。
けれども日本で理解されなくとも、WHOでも認められ、欧米では当然に理解されている「病気」なのです。

闇カジノ事件を起こしたバドミントン選手は、あれだけの地位と名誉を築きながら、
違法ギャンブルにのめり込んでいたわけですから、ギャンブル依存症を罹患していた可能性が高いと思っています。

「分かっているのにやめられない」
この病気の苦しみをご理解頂けるでしょうか。

誰も好きこのんで病気になるわけではありません。
そしてバドミントン協会の対応を見る限り、周囲の方々もこの病気に理解があるわけでもありません。
そしてご本人達が自分たちを一番不可解に思っているでしょう。
「何故、こんなことをしてしまったのだろう・・・」

自分を責め、自分を恥じ、後悔にさいなまれてることでしょう。
病気に罹患したことを、本人も周囲も誰も気がつかず、責められ、罰せられ、貶められ、努力が全て無駄になり、そして何もかも失い、大切な人達まで傷つけ被害を与えてしまう、こんな残酷な病気に苦しんでいる人達が、日本には536万人もいるのです。

そして特にアスリートは、「スポーツマンシップ」という言葉で、高潔さを求める精神論だけで、問題解決を図ろうとされてしまいます。

欧米諸国では、アスリートとギャンブル問題に関する調査・研究が行われ、積極的に予防教育を実施するなど、国や所属団体の関係者が一丸となって、大切な人材を守っていく取り組みを推進しています。
日本でもそうあるべきと私たちは、チェンジオルグで再発予防を訴えています。
「バドミントン選手闇カジノ事件」――アスリートとギャンブル問題に関する再発防止策を国に求めます!

指原さんは、違法ギャンブルに手を染めた桃田さんを、許せないのかもしれません。

でも指原さん、今一度良くご自身たちも振り返ってみて下さい。
指原さんやAKBの皆さん、またその他の芸能人の方々も、パチンコ台のキャラクターになっていますよね。
事務所は版権契約で金銭を得て、それは皆さんのお給料にも反映されたのかもしれません。

でも、現在パチンコ台不正改造問題が、マスコミにも大きく取り上げられた社会問題になっています。
当然、関わっておられる皆さん方もご存知かと思います。先日、河野国家公安委員長が「ゆゆしき問題。早急に回収すべき」とご発言もされました。
4/27 内閣委員会 パチンコ不正くぎ問題

警察庁で「不正にあおる射倖心がギャンブル依存症問題に大きな影響を与えている」と何度も注意されているにもかかわらず、不正改造台は、発覚から1年以上も経過しながら、いまだそのまま使用され、不当に利益をあげています。利益を生み出すために、芸能人の皆さんの版権契約は大きな役割を果たされています。それを知りながら、関係する芸能人の皆さんは誰も調査や回収の徹底を呼びかけていません。

それなのに、野球選手やバトミントン選手のギャンブル問題には、声高に清廉性を求めるというのは、大きな矛盾ではないでしょうか。

そして指原さんが感情的に受けつけないとしても、私たちはギャンブルで問題を起こしてしまった、この病気に苦しむ人達は、仲間だと思い、桃田選手らを応援しています。私たちは、借金等の問題で、大切な人たちを傷つけてしまった失敗から再起し、埋め合わせを果たしながら、人生をやり直しています。

「失敗をした人を、二度と応援したくない」
それが私が好きだった指原さんの考えであるとするならとても残念です。けれどもこの世の全員が指原さんと同じ考えではありません。現に再起を祈っている私たちもこうしております。

指原さん、ひきこもり経験をしたあなたなら、
「学校や社会に出た方がよいことは分かるけど、でもできない」
という方々がいらっしゃることも理解できるはずです。
人は必ずしも合理的な行動だけを選択できるわけではないと。

「ギャンブルを借金してまでやってはいけない」
「違法ギャンブルに手を出してはいけない」
頭で分かっていても行動が伴えない病気に苦しむ人が、この世にはいるのです。
そのことを情報発信し、社会の理解を求めることが私たちの活動です。

私たちは同じ苦しみから抜け出して貰う術を伝えるために、こうして情報発信し、彼らを応援しています。

「誰も応援してくれないですよね」という指原さんの発言、撤回して頂けたら幸甚です。


編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2016年5月2日の記事を転載しました(見出し、本文の一部をアゴラ編集部で改稿)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。