150万円で結果にコミットする少子化対策

2016年05月09日 06:00

少子化が問題となって久しい。こどもの日に恒例の政府発表では「0~14才の人口は約1600万人で35年連続の減少」と、更なる少子化進行を示した。対策としては、「認可保育園を増やせ!」というのが昨今ブームだが、効果は定かではない。「あら~、こんど駅前に認可保育園ができるみたい…じゃあ、私も産んでみようかしら」という女性が実在すると思えないからである。という訳で、「150万円で、かなり確実に日本の出生数を1人増やす方法」を提案したい。

高度不妊治療の一つに体外受精がある。「精子と卵子を体外で受精させて子宮に戻す」という治療法だが、晩婚化の影響もあって年々増加している。日本産婦人科学会の2013年調査では、日本の体外受精児は年4.3万人になり、「新生児24人に1人」という時代になった。費用は一回あたり約20~50万円(自治体によって若干の助成金あり)だが、これが今なお健康保険が適用されていない。なぜならば「不妊は病気ではない」というのが厚労省の見解だからである。

生活保護受給者の医療費はタダで無制限なので、年1000万円以上の医療費を使う生保患者は病院では珍しくない。「高額医療費支給制度」という、「70才以上の年金生活者は、月500万円医療費を使っても自己負担2~4万円まで減免」という制度があるが、30代の不妊治療中カップルには適応されない。「年収が額面400万円のサラリーマンならば、保険+年金で年60万ぐらい天引き」さらに「30代の3割が非正規雇用」という時代なのに…世代間格差で搾られるばかりである。

2014年から、「月300万円の抗がん剤」が保険適応になった。とはいえ、効果は「末期がん患者の寿命が数カ月のびた」レベルであり、「がんを完治して働けるようになった」というような「夢の新薬」ではない。その他、「バイアグラ」「前立腺がんにロボット手術(≒傷が小さい)」のような、高齢者向け医療は命に直結しなくても保険適応になりやすいのに、不妊治療のコストに社会は無関心である。

「子供の貧困」や「老後破産」は各種メディアでみかけるが「不妊治療による30代貧困家庭」は取り上げられない。「私は女性や子供の味方!」とアピールする女医・女性弁護士・女性ジャーナリストといった面々も、この問題には無関心だ。女性政治家の野田聖子代議士は、自身が不妊治療をしていた頃はこの問題に積極的に取り組んでいたが、海外卵子提供による出産後は、憑き物が落ちたのか言及しなくなってしまった。

私は「結果にコミットする」少子化対策として、「体外受精の保険適応」を提案したい。30代女性ならば出産率約20%なので、「約30万×5回=150万円」で「出生数一人アップ」が期待できる。現代日本における平均的収入の30代カップルには「一回30万円」とは萎えるような大金だが、「年収300万の女性に高額療養費制度が適用」ならば「月4万の自己負担」となり、経済的理由であきらめたカップルも再チャレンジできるだろう。現在「体外受精には先ず貯金しないと」というカップルは、1ヶ月でも若く妊娠しやすいうちにチャレンジしてもらえる。

「生保や寝たきり老人の濃厚医療」あたりを見直せば、「体外受精1万人分」ぐらいの費用は捻出できそうだ。というか、2005年頃に高度生殖医療を保険適用しておけば、今頃は「団塊ジュニアのジュニア」によるベビーブームが起こったかもしれないと思うと、非常に残念だ。が、今からでもやらないよりはマシである。高度で高額な不妊治療に苦しむカップルも、ブログやSNSで「今月の治療代50万、日本死ね!」「三世代住宅補助金より、コッチが先!」などと参院選を前に騒げば、何か変わるかもしれない。不妊治療支援は「孫の顔が見たい老人」にもアピールできるので、地方一人区の選挙公約にも使えるんじゃないかと考えている。

フリーランス麻酔科医

1966年生まれ。フリーランス麻酔科医。地方の非医師家庭に生まれ、某国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、2012年から、「ドクターX~外科医・大門未知子~」「医師たちの恋愛事情」など医療ドラマの制作協力に携わる。2013年から、東洋経済オンライン「ノマドドクターは見た!
」で論壇デビューし、執筆活動も行う。近著の「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」では、不妊症専門病院を含む100以上の病院を渡り歩いた現場の実情をレポートしている。

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筒井 冨美
フリーランス麻酔科医、医学博士

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