バフェット氏は今なぜアップルだと思ったのか?

カリスマ投資家、ウォーレンバフェット氏率いるバークシャーハザウェイ社はアップルの株式を発行済みの0.2%、金額にして1100億円を投じたと一斉に報道されています。正直申し上げてサプライズであります。

バフェット氏はかつて分からないものには手を出さない主義でコンピューター関連は「分からないものリスト」(=安定感に乏しい)に入っており、かつてほとんど投資実績がなかったと認識しています。よって氏の基本スタンスは配当と廃れないビジネスに資金を投じる姿勢であり、バフェット方式としてそのスタイルは高く評価されていました。

アップル社は2016年1-3月期が四半期ベースで13年ぶりの減収となっており、アップルの時代は終わったのではないか、と囁かれています。事実、多くのファンドもアップル売りを進め、カールアイカーン、ブリッジウォーター、アパルーサなど著名なファンドや投資家は全株売却を発表しています。その中でバフェット氏は逆張りとも言える買い向かいを行っているのですが、時価総額55兆円と巨額なこの会社にいくらバフェット氏とも言えどもかなり勇気のある行動に映ります。

発表を受けた月曜日の朝のニューヨーク市場はバフェット氏のアップル買いを好感し、3%以上上昇していますが、今日は全体の相場つきが良く他も皆上がっているのでしばらく様子を見ないと何とも言えません。

アップルにピーク感が出てきていることは製品の発注量の下方修正が続いていることもあります。特に同社の目玉商品であるスマホに関して先日発売したSEは画面が大きくなるトレンドに逆らい、4インチサイズとしただけでなく、解像度や照度についても厳しい意見が出るなどアップル社の製品としてはかつてなかった初期反応がありました。

日本はライバル サムスン製の商品の売れ行きがイマイチなため消去法的にアップルの高い普及率を誇っていました。ところが日経ビジネスの「ブランドジャパン2016」によると今年のアップルのブランド総合力は昨年9位から今年は28位まで下落しています。このブランド調査は好感度で前向きなイメージを維持しないとすぐに落ちるセンシティブ性があるようで、例えば昨年1位のセブンイレブンは今年は13位まで落ちています。

なぜ、日本でもアップルの熱狂が冷めたのか、ですが、結局今はどのスマホも同様の機能を持ち、既に成熟マーケットになっていることで差別化が図りにくくなったとしか言えません。正にコモディティ化したということでしょうか。これは新興市場や買い替え需要を中心にまだ伸びる余地はあるものの新しい分野の開拓力という点では今のところ期待が伴いません。

ですが見方を変えるとこれこそバフェット氏が得意とする分野で成熟したマーケット、一定のシェアの確保、配当能力こそ真骨頂なのでしょう。では、「分からないものには手を出さない」バフェット氏が手を出したITへの投資の裏は何があるのか、更に考えてみたのですが、優良な投資先が見つからない、という苦肉の結果ではなかったかと思うのです。ITを今後も避け続けることはできないという背景もあったでしょう。製品とサービスをITでつなぐという新しい分野が切り開かれようとする中でアップルがまだその力を伸ばす余地は相当あるとみたのかと思います。

配当だけを見れば2.52%程度ですのでアメリカの高配当が並ぶ企業群からすれば特段、優位にあるわけではありませんが、証券アナリストは42社中15社が強い買い推奨となっています。

では注目のIoTがアップルにプラスの効果を見せることはあるのか、といえば私にはまだ想像できません。多分、アプリで対応可能でしょうからアップルの製品を新たに購入する必要はなさそうな気がします。注目のアップルプレイ(カープレイ)ですが、要はカーナビ、電話、音楽などがクルマの中でも楽しめる、ということで一部の車には標準で対応可能となっています。このような売り方は上手だと思いますが、マップはアップルよりグーグルの方が優れているので評価はまだ分かれるところでしょう。

イメージとしてはマイクロソフトのように世間の注目の中心に座すわけでないけれどいいところにはいる、という感じでしょうか。

プロの投資家同士で強弱感が対立するアップルですが、よほど面白いものを出さない限り、多くの投資家は乗り換えを進めるような気がします。かつての期待を維持するのはなかなか大変なような気がします。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 5月17日付より