※画像は厚労省HPより引用。
ストレスチェックを義務付ける制度が昨年の12月1日に施行されました。それにともない厚労省版ストレスチェック実施プログラムのバージョンアップが5月30日に完了しました(6/2にバージョンアップ版も公開)。これによって本システムを使用すれば、事業者側、受験者側ともにデータチェックを一元管理することが可能になりました。本システムについて私見を述べることをお許しいただきたい。
●非常に優れたプログラムである
非常に秀逸なプログラムです。しかも無償です。本システムがあれば中途半端なアセスメントは必要なくなります。ストレスチェック関連のアセスメント開発をしている会社にとっては衝撃があるかも知れません。厚労省が監修したストレスチェックという点も評価できるポイントです。データ容量は約270MBありますがインストールは自体は容易です。
しかし問題が無いわけではありません。ひとつは結果を予想できてしまうという点。設問の時点で結果が予想できてしまう点です。以下は受験した結果の一部抜粋になります。私自身が「高ストレス者になり切って受験した結果」ですがスコアは満点です。つまり、回答上はストレスfullで満点の結果ということになります。当然ながら同一設問で逆の回答をすれば、ストレスemptyの結果が導き出されます。
●ライスケールが存在しない問題
本検査にはライスケールが存在しません。ライスケールは適性検査などに組み込まれていますが、受験者が嘘をついていないかをチェックするための質問になります。同じポイントを聞くような設問を用意して回答度合いによって信頼係数を測定するものです。
例えば以下のようなケースではどのように回答するでしょうか。
1.休日は外出することが多い
2.休暇が分かっている時には必ず予定をいれるほうである
3.スポーツは見るよりも実際にやってみたいほうだ
このような質問があり「いいえ」「NO」の回答が多いと社会性や社交性が低いと判断されます。一方で、次のような設問を加えると仮定します。
1.ON、OFFのメリハリをつけることは苦手だ
2.家でじっとしていることが多い
3.自分は、豊臣秀吉より明智光秀タイプである
社会性や社交性が低い場合、これらの設問は「はい」「YES」の回答になることが予想されます。関連する設問と比較して整合性がとれていなければ、ライスケールが高いという判定がくだされます。いくら受験前に「いまの気持ちに正直にお答えください」と記載したところで、ストレスチェックの結果が人事上不利益を被ると考えている人は多いので、なかなか正直には回答できないものです。
そこで不安のある人は、先の結果のように「想定する人物」になり切って答えることになります。本来は、結果の精度を高めるために、ライスケールを用意するのが一般的ですが、本検査にライスケールは存在しません。アセスメントに慣れていない人でも、ストレスを抱えていない人になり切ってしまえば高ストレス者として判定されることはありません。
誤解が無いように補足しておきます。年間に約3万人、毎日80人弱が自らの命を絶っているという現実が存在するなかで、これらを予防する目的として導入されたのがストレスチェックです。精神疾患が起きる状況を未然に防止して、社員が働きやすい快適な職場づくりを目指した施策ですから、僭越ながら精度はさらに高める必要性があると思います。
※なお設問は記事用途に分かりやすく表現したものです。
●セキュリティの問題
推奨OSとして、WindowsXP、WindowsVista、Windows7、Windows8、が指定されています。しかし、XPはサポートが終了しています。Microsoft 社からは脆弱性に関する情報やアップデートは行われません。サポート終了以降に発見されたセキュリティホールについても利用者は知ることができません。修正もされませんから常にセキュリティリスクを抱えた状態になります。説明ではインターネット環境と切り離されていることを前提としていますが、インターネットを通じてダウンロードさせる時点でリスクが生じると考えられます。
オフライン、仮想OSに切り替えた場合は、攻撃リスクを低減することは可能です。しかし、ストレスチェックは重要な個人情報です。データの扱いについても、労使双方が安全衛生委員会で協議した上で運用方法が決定されています。受験者データについては、上司や考課者が見ることができないことからも機密情報であることが理解できます。機密情報にも関わらず、XPを推奨にする理由が分かりません。ストレスチェックには大きな大義がありますが、運用方法は各企業に叡智にかかっているようです。
※Microsoft 社のサポート終了の重要なお知らせを参照ください。
尾藤克之
コラムニスト
追伸
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