NYフレンチの最高峰、世界トップ50から陥落

NYフレンチ

驕れるもの、久しからず。

NYの最高級フレンチと言えば、泣く子も黙る”パ・セ(Per Se)”。コロンバス・サークルの傍に建つタイム・ワーナーに鎮座し、ミシュラン三ツ星を誇る名店です。9種類のコースで形成されるディナーのお値段は一人325ドル(約3万5100円)。カリフォルニア州のナパにある”フレンチ・ランドリー(French Laundry)”と共にオーナーシェフのトーマス・ケラー氏が手掛け、東西の海岸はもちろん全米を超えて世界でその名を轟かせていました。フルコース・オンリーのメニュー提供やサービス料込みの価格設定で、革命を起こしたものです。

しかし今年、異変が生じます。

ロンドン発”レストラン・マガジン”が発表する世界最高峰レストラン・トップ50リストから、削除されてしまいました。

”パ・セ”は2013年に最高で6位にランクインし、2015年には何とか上位を維持したものの、今年は敢えなく52位に終わりました。”フレンチ・ランドリー”に至っては2003年と2004年と2年連続で王座に輝いたのも今は昔、2016年には85位へ急降下しています。

一体、何が起こったのか?専門家の声を聞いてみましょう。

イーターのライアン・サットン記者は2014年、「かつてのアイコンに寄る年波(Once an Icon, Per Se Is Showing Its Age)」と題した記事で、ワインや追加料金を含めたディナー料金のコストパフォーマンスが悪いと痛烈に批判していました。「ワイングラスはザルトではなくシュピゲラウではないか」、「バターたっぷりで食事が重く、かつてチャーリー・トロッターが残した名言『翌日の朝食が楽しみになる夕食』には程遠い」など、言いたい放題です。

今年1月にニューヨーク・タイムズ紙のピート・ウェルズ記者による記事も、タイトルからして「トーマス・ケラーのパ・セ、衰退と転落(At Thomas Keller’s Per Se, Slips and Stumbles)」と辛辣そのもの。昆布締めを使うなど、フレンチとしては斬新なアイデアが息づくとはいえ「トイレから戻って椅子に腰掛けても誰も椅子を引いてくれない」、「追加料金40ドルのフォアグラにするか、サラダかどちらにしますか?」と尋ねるウェイターの声は脅迫めいている」など、2011年に別の記者が4つ星を与えNYナンバーワンの座を射止めたレストランとは思えません。繰り返しますが、こちらのメニューはフルコースで325ドルで、オープンした当時の2004年の150ドルの2倍超の設定となっているんですよね。

ちなみに、325ドルでもNY市で最高の価格設定ではないから驚愕してしまいます。フルコースでの通常ディナー料金、一人当たりでは以下の通り(注:2014年ベース)。

1位は、同じくタイム・ワーナーに看板を掲げる寿司の名店”Masa”。
eater1

追加料金と税金を含めた一人当たりのお値段は、こちら。

eater2

(出所:ともにEater、2014年版)

ワインを除いてもこの価格ですから、2人で訪れれば1000ドルつまり10万円以上を覚悟しておかなければなりません。ワイングラス1杯は2014年時点で赤ワインなら32〜47ドル、白ワインで20〜35ドルとはいえ、9種類のコースを味わうのにワイン1杯とはいきませんからね。ボトルを選んだとしても125ドル以下は約100本備えているとはいえ、125〜300ドルが約460本、1000ドル以上が約760本ですから、どこの価格帯に重点が置かれているかは一目瞭然です。”パ・セ”おススメ、フルコースに合わせたワインのペアリングなら310ドル也。ディナー料金と同じレベルですから、呆気にとられますよね。

そんな”パ・セ”に、まさか世界の最高峰レストラントップ50圏外の日がやって来るとは。予約システムにすら強気そのもののスタンスを押し出していた感もあり、盛者必衰の理という言葉が頭をよぎります。

(カバー写真:Per Se


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年6月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。