原子力による脱原子力

森本 紀行

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原子力発電をやめるためにも、原子力発電を継続しなければならない、そうした構造的な矛盾があるのではないか。この矛盾は、原子力反対派と原子力推進派の立場を超えて、共有されなければならないのではないか。

原子力による脱原子力とは、仮に、脱原子力の政治決定が行われたとしても、経済的、また技術的諸制約からする論理的な帰結として、その完了までには極めて長い時間、例えば50年以上というような長い時間を想定せざるを得ず、その間、原子力発電所は厳然として存在し続ける以上、現実的には、その稼働を継続し、場合によっては、新しい原子力発電所の建設すら行われねばならないだろうということである。

再稼働できなくなっている原子力発電所は、必ずしも、物理的に稼働できないわけではない。稼働しないのは、社会的な制約としての新規制基準への適合性について、あるいは、新規制基準の合理性そのものについて、社会的な合意が形成されていないからである。

所詮、社会の合意の問題である。現時点で脱原子力に踏み切ることも可能である。しかし、それに伴う社会的費用があまりにも大きければ、実質的意味において、可能といえるかどうか、まさに、ここが議論の焦点である。

確かに、直近の事実として、かなり長い期間にわたって、日本国内の全ての原子力発電所が稼働を停止していたということは、現時点において、原子力を除いた電源構成によって、十分に電気の安定供給を行い得るとも考えられる。

しかし、原子力発電は、科学技術の利用と電気事業の経済性に関するに政治の問題である。全ての原子力発電所の稼働を永久に停止する、即ち、原子力発電を廃止したときには、少なくとも、三つの論点を検討する必要がある。

第一は、原子力発電の廃止にともなう電源構成のゆがみは、一時的に他の電源を稼働させることによって補わなければなければならず、場合によっては、大きな費用負担となること。

第二に、原子力を抜きにした電源構成の再構築が完了するまでには相当な時間を要すると思われるが、その間の電気供給は、不安定なものにならざるを得ないこと。

第三に、原子力発電所の廃炉作業については、財源がなく、かつ消滅に向かう事業について技術者を確保するのは困難だろうということ。また、その費用負担についても、社会的合意が必要であること。

以上の課題は、即座には、解決できない。故に、脱原子力は、長い時間をかけて、いかに原子力と付き合うかという問題なのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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