国民の1割が不在の中で大統領選

アイスランドで25日、大統領選の投票が行われ、新人で国立アイスランド大のグズニ・ヨハンネソン教授(48)が当選した。

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▲アイスランドの国旗

このニュースを読んだ時、「アイスランドの国民の1割は現在、フランスで開催中のサッカー欧州選手権(ユーロ2016)を観戦するためフランス国内を移動中」と述べていたユーロ2016中継のアナウンサーの言葉を思い出した。

アイスランドの総人口は約33万人だ。その一割と言えば、約3万3000人だ。その国民が欧州選手権に初参加した自国のナショナル・チームを応援するために現在、バケーションを兼ねてフランス滞在中というわけだ。総選挙の投票日前、日本国民の1千万人以上が海外に出かけている状況を考えてほしい。期日前投票などの方法は考えられるが、人口の1割が不在中という状況は想像できない。

アイスランドは小国で、日本人にとってあまり馴染みがないかもしれない。2010年、エイヤフィヤトラヨークトル氷河の火山噴火で世界の空が大きな影響を受けたことを思い出すかもしれない。

当方はアイスランド出身の友人がいる。日曜日の教会礼拝で知り合った。彼はドイツ女性と結婚してウィーンに住んでいる。長距離トラックの運転手だ。彼は無口でほとんどしゃべらない。礼拝で説教者が話し出すと直ぐに眠りだす。当方は眠る彼の後ろ姿を見ながら、仕事で疲れているのだなと同情している。
彼に大型ゴミを捨て場まで運んでもらったことがある。笑顔を見せながら黙々と仕事をする。何か不満や嫌なことがあっても不思議でないが、彼は何も言わない。
ちなみに、アイスランドの男性は長生きだという。だから、アイスランドの男性と日本人女性が結婚すれば世界一の長寿夫婦が誕生するという話を聞いたことがある。

ところで、欧州選手権に初参加したアイスランドのチームは大方の予想に反してグループ戦を勝ち抜き、決選トーナメント入りした。Fグループ戦の第3戦相手はオーストリアだった。そして予想を裏切り、アイスランドが2-1で勝利し、Fグループ2位でベスト16に進出したのだ。
アイスランドのゴールキーパー(GK)ハネス・ハルドルソン選手は本職は映画監督だ。そのチームが、FCバイエルン・ミュンヘンで活躍するMFのダビッド・アラバ選手などトップクラスの選手を抱えるオーストリアのナショナル・チームを破ったのだ。オーストリアのファンにとって、アイスランド戦の敗北は文字通り、悪夢だった。同時に、サッカーは1人、2人のスーパー・スター選手がいたら勝てるというスポーツではなく、選手間の一体化、結束にかかっていいることを改めて教えられた。

国民の1割は今なおフランスに滞在し、スタジアムでは1万人以上のアイスランド人が選手を応援している。次の試合は対イングランドだ(日本時間28日午前には結果が出ている)。試合前に流れるアイスランド国歌は教会の聖歌のようなメロディ―だ。通常の国歌より少々長い。ユーロ16に参加している国の国歌の中で、当方はスロバキアと共にアイスランドのメロディ—が好きだ。

アイスランドでは4月、タックスヘイブンの情報を暴露した「パナマ文書」で、グンロイグソン首相が辞任に追い込まれたばかりだ。友人の姿や国歌の美しいメロディーを聴いているとそんなアイスランドの政変は忘れてしまう。一度訪問してみたい国だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年6月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。