日本の不動産、回復は本物なのか?

毎年7月1日発表する路線価が全国平均で8年ぶりにプラス転換したそうです。基準日は今年の1月1日ですから半年ほど古いデータであることに留意が必要です。私は日本の不動産については都市部の一部の商業不動産についてはしばらく活況を呈するが、住宅地についてはまばらになる、とこの2年ぐらい申し上げていたと思います。基本的にこの考え方は変わりません。

財務省の路線価にしても国交省の公示価格にしてもばらつきが非常に大きいため、全国平均とか都道府県の平均でみると案外騙されやすいことと不動産価格のトレンドがかつてより短いサイクルになりそうですのであまり大所高所の不動産価格にとらわれると痛い思いをすることもあるかもしれません。

まず、この数年、日本の大都市圏の不動産が好調だったのは円安と中国などのマネーが日本の不動産を買い支えたことが大きい要因です。この特需は確実に消えますので来年以降の統計に少しずつマイナスの数字が出てくるとみています。

日本の不動産は主要国の金融緩和措置で投資先、運用先を失ったマネーがその行き先を求めてうろうろしていたこと、もう一つは中国からの「様々な性格のマネー」が高い利回りを求めて日本に行きついたことがあげられます。世界主要都市の不動産賃貸の利回りは1-2%程度に対して日本はまだ4-5%は取れます。また、世界経済が不安になればなるほど日本はセーフヘイブンとしての輝きを増すため、日本に不動産を求める動きが出ていたものです。

ところがパナマ文書問題を機にマネーの動きが変わったような気がします。「うろつくマネー」の受け入れ先の本家本元であるバンクーバーでの不動産事情を間近で見ていて急速な温度差が出てきています。明らかにスローになっているこのトレンドは日本というセカンダリーな選択地(=うろつくマネーが本命を逃して穴場をねらうようなもの)への影響はさらに大きなものになりますので2016年の統計が出るころには予想以上の下落があるとみています。

そして円高も海外からの不動産投資にはまったく面白くない話です。私もカナダからみて円が安い時期には魅力を感じましたがこの数か月で市場はすっかり反転して投資意欲は減退しています。

国内事情としては相続税対策としてタワマンの高層階を買っておく動きがブームのようになっていたことがあります。これに対して国税が階高に応じて税額を見直すなど「対策」を打ち出しています。また、新たに国税庁の長官になった迫田英典氏は世界の課税逃れについて積極的に対応することを記者会見で述べていますが、長官の主張する「公平な課税」を突き詰めれば相続税の不具合をつぶしていくようにも聞こえます。

その国内で住宅に対する購買余力がどれぐらいあるのか、と言えば賃金上昇が期待できず、就労の長期的コミットもかつての終身雇用時代とは全く変わってきていますから銀行が住宅ローンの査定基準を抜本的に見直さない限り住宅需要の長期下落トレンドは避けられないとみています。

つまり、私の見立てでは日本の不動産はピークアウトに近いと思っています。

繰り返しますが、爆買い需要も一気に萎んでしまったのはブームという一過性のものだったところに中国が関税の見直しをしたことでトリガーを引きました。私は何度も「こんなものは続かない」と警告を発していました。

不動産が上昇するには実需がないと上がるはずがないのです。実需とは住宅地ならば人口が増えること、商業地ならば消費が増えること、これが鉄則です。日本には両方ともありません。さらに悪いことに容積率緩和を利用して建物が空に向かって無限に作られる時代になったため、土地の価値は駅前、駅近などが有利になる一方、駅からバス便や私鉄沿線の遠方では需要減退が継続することになるとみています。

今後はアセットライト(=資産を抱えないで状況に応じて動きやすくすること)で不動産は買うものから借りるものにした方が様々な意味でお得な時代がやってくるとみています。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月4日付より