健全なネガティブ・キャンペーンと怪文書の違い

2016年07月09日 06:00

小池百合子氏や小鑓隆史氏に加えられる地方ボスからの卑劣な攻撃に思う

猪瀬直樹元都知事が、古い体質の自民党都連の情報操作にのって、小池百合子氏の些細な手続き的瑕疵や、男性社会の論理に基づく古い政治ムラの掟に従わないことを、あたかも無責任な人間であるかのようにマスコミが攻撃していることを厳しく批判している。 

小池氏の事務所の家賃がやや安めかといっても税務上、贈与とみなされたりするようなものでなければ社会常識の範囲だから報道ぶりは不可解だ。 

あるいは、猪瀬氏がいうように「小池氏のいきなり議会解散は、メディアのいわゆる切り取り報道。もし不信任案が出されたらと説明しているところが省かれている。だから唐突感があるように見えるが、きちんとロジックを踏まえた発言。すべての報道にあてはまることだが、つねにメディア空間には奥行きを見据えて理解する努力が受け手に求められている」というのも誠にもっとも。

一方、滋賀地方区で与党候補で経済産業省の技術官僚でる小鑓隆史氏は、野党連合の推す現職の林久美子氏(民進党・世耕官房副長官の夫人)に優位に戦いを進めているとされる。

彼は二年前の知事選挙にも出馬したのだが、なりふり構わない対立陣営の個人攻撃に沈没した。とくに、出馬を決めて間もないころに大手新聞の記者と呑んだときに不用意に県内の政治家たちの第一印象を語ったものが編集され、実際の人間像とかけ離れたいかにも傲慢なニュアンスが加えられてネットでばらまかれ致命傷だといわれた。 

この怪文書事件は、三点において異常だった。①私的な会話が不正に流出した、②相手が大手新聞社の記者だったとされる、③拡散に対立陣営の高いレベルの人が関与したことだ。

保守系の個性的な政治家をおもしろおかしく描写したことで支持者に動揺を与えたが、いちばんひどい発言と指摘されたのは、「武藤さんは変な人だよね」としたことだった。武藤さんとは、のちにブログ炎上や男性買春問題で自民党を出た武藤貴教代議士で、小鑓氏の指摘こそ健全なものだった。 

そして、今回も選挙戦が終盤に入ると、またもや、この怪文書が相手側陣営、それも高い地位の人からネット上でばらまかれているのはとても残念だ。 

私は日本の政治では、欧米に比べてもう少しネガティブ・キャンペーンがあっても良いと思う。アメリカは少しそれが行きすぎているが、誰が見てもおかしいこと、有権者の選択の材料として重要なことが知らされていないままになっていることはおかしいと思う。とくに、地方レベルでは、それが現職首長の異常に長い支配につながっていることも多い。

しかし、それは、たまたま流出した発言とか少額の政治資金取り扱いのミスといったものでなく、政策とか基本姿勢、過去の仕事についての虚偽や矛盾した説明、不適切な人間関係といったものに対する攻撃であるべきだと思う。また、ありがちなことと、明らかに度を過ぎていることと別だと思う。

岡田克也氏が実家が経営するイオンの経済力や政治力に支えられてきた以上はイオンの経営姿勢やそれとの関係について指摘されるのは当然だ。官房副長官の妻が共産党の支援まで受けて選挙戦を戦えばけじめをつけるべきだと言われても仕方ないし、オウム事件関連で不適切な報道をした番組のキャスターが候補者になればそのことで説明を求められるのも当然。蓮舫氏のように外国から帰化した候補者が日本への忠誠度を問われるなど、もっともっと追究されるべき問題であって、中傷でも何でもない。 

それ以上に、不思議なのは、世襲政治家たちが、父親や祖父たちの地盤を継承しながら悪行の責任は取らないことだ。田中真紀子氏が全盛のときに、父親の金脈問題に他人事のように振る舞うことを許したのは酷い話だった。 

外国ならさんざん追究されて、父や祖父に対する自己批判をしない限りは出馬するなということになるのが当たり前だ。いいとこ取りの継承など許されるべきでない。親が汚い手段で儲けた金を相続して使う金権候補がクリーンなどというのは笑止千万だ。

小池さんや小鑓さんには、こうした下劣な攻撃に打ち勝って、目的のためなら汚い手段を使うことを厭わないプロの政治の世界に健全な批判精神をもって清新な風を吹き込んで欲しい。 

永田町の論理はいつもひどい批判にさらされているが、それに比べて、地方政治家には甘いし、保守には厳しいが革新や市民派には甘い。しかし、都連自民党が伏魔殿などというのは昔から知る人ぞ知るだし、滋賀県のいわゆる市民派など武村正義氏が知事に当選した1974年から40年以上も県政を牛耳っているのであってアンチ権力でもなんでもない。

(上記は対立候補を揶揄するものではない。増田寛也氏も林久美子氏も個人的にも知っているし、両人が優れた人物であることは承知の上であるので誤解なきよう)

参照:拙稿小池百合子が都連のドンに勝てる条件

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学大学院教授

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