【映画評】セトウツミ

セトウツミ 1 (少年チャンピオン・コミックス)

高校2年生の瀬戸と内海は、性格は正反対だが何となく気が合う友達同士。放課後はいつも河原でしゃべりながら一緒に過ごしている。くだらない会話、言葉遊び、気になる女の子の話、時にはちょっぴりシリアスなことも話す。そんな二人を見守る同級生の女の子、樫村に瀬戸は憧れているが、樫村は内海に好意を抱いていた…。

男子高校生がただしゃべるだけという異色の青春会話劇「セトウツミ」。原作は此元和津也による人気漫画だ。大きな事件は起こらない。激しいケンカなどのアクションもなければ、障害を乗り越える情熱的な恋愛もない。そんなユルい物語がめっぽう面白いのだから、映画というのは見てみないとわからないのだ。

ストーリーらしいストーリーはないが、クールな性格でかぎりなくツッコミに近いボケ役の内海、天然キャラで限りなくボケに近いツッコミ役の瀬戸という脱力系コンビが最高にキャラ立ちしていて、魅せられる。しかも演じるのは、それぞれ池松壮亮と菅田将暉という、今、最も旬な若手演技派俳優たちなのだから、芝居もしっかりしていて、これまた魅力的だ。関西弁の独特のあたたかさや可笑しみも効いている。

とりとめのないことをしゃべるだけだが、そのユルい会話のふしぶしに立ち現れるのが、青春期特有の不安、焦燥、そして希望である。ばかばかしくも楽しい時間や理由もなく無気力になる瞬間などが巧みに描かれ、放課後の河原がかけがえのない場所へと昇華していくのだ。主な登場人物は3人(瞬間的に現れては消えていく脇役はかなりいい味!)、ほぼ同じロケーション、上映時間はわずか75分。起承転結という約束事から解き放たれた、秀作青春映画である。

【80点】
(原題「セトウツミ」)
(日本/大森立嗣監督/池松壮亮、菅田将暉、中条あやみ、他)
(まったり度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年7月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。