知られざる増田県政の金字塔と都知事選の本当の争点 --- 小保内 義和

2016年07月25日 14:50

巷の話題を席巻している東京都知事選ですが、私たち岩手県民は、都民や他府県民の方とは違った感慨や視点で眺める面があります。

増田県政については、県の借金を二倍にしたなどと批判する報道はよく目にしますが、知事の功績として大きく評価されるべきものがあることは、ほとんど知られていません。

都民が知らない巨大不法投棄事件での手腕

それは、「岩手と青森の県境で生じた巨大不法投棄事件(以下、県境不法投棄事件と言います)で、率先して全量撤去と関係者への責任追及の姿勢を示し、特例法の制定に繋げて曲がりなりにも県民の費用負担を大きく減らす形で地域の環境を回復させたこと」です。

県境不法投棄事件とは、青森県田子町の山中(岩手県二戸市との県境)に産業廃棄物の施設を設置していた業者が、県境の谷間や山林に膨大な量の廃棄物を不法投棄した事件です。

この事件では、主犯格たる青森の業者と首都圏を中心に全国各地から産廃を集めて現地に送り込んだ埼玉の業者が摘発されたものの、発覚時点でほぼ倒産状態にあり、両県併せて最終的に1000億円近くに及ぶ原状回復費用を負担するのは不可能でした。

そのため、巨額負担が当初から予測された青森県は、廃棄物を撤去するか否か明言せず、遮水壁を作って放置(封じ込め)をするのではないかとの疑念が強く寄せられ、地元住民・田子町との間で大きな軋轢が生じていました。

これに対し、岩手県側では、増田知事が非常に早い段階で「有害性が強い物が多数含まれており、必ず全量撤去する」との強い姿勢を表明し、それと共に岩手県独自で処理業者の財産に仮差押を行い2億円以上の確保に成功する快挙を成し遂げています。

県境事件の岩手側は人里から遠く離れていた上、撤去費用に関し国の補助などが得られるのかも不透明でしたが、首都圏など全国のゴミが違法に持ち込まれて捨てられたという事件の性質が、岩手が背負う中央政権に虐げられた蝦夷などの歴史と重なり、知事の判断は、県民の強い支持を受けることになりました。

そして、青森県もこの動きに影響を受け、重い腰を上げるような形で全量撤去を表明し、国が費用の約6割を補助する産廃特措法が制定され、約10年かけて両県の撤去作業が行われました。

この法律は、悪質な大規模不法投棄が判明した県境不法投棄事件と香川県豊島の不法投棄事件の2つを主に救済するため制定されたのですが、仮に、増田知事や青森県知事が現地封じ込めの選択肢をとった場合、地元住民は、豊島住民が中坊公平弁護士らの支援のもと香川県を相手に公害調停などを行った事件のように、長く苦しい闘いを強いられる展開になったことは間違いありません。

そのような苦難を地域住民に強いることなく率先して全量撤去を打ち出し、撤去費用に国の多額の補助を確保したことは、増田県政の金字塔と呼んで遜色ないと思います。

実際、両県は、原状回復作業に並行して、産廃業者に委託した全国の事業者の幾つかに、廃棄物処理法上の違反があったとして自社が排出した廃棄物の撤去費用を支払わせるなど、首都圏の排出者側との闘いを地道に続けました。

増田氏に求めたい地方と東京のより関係づくり

ただ、増田知事にとって一つ心残りがありました。

それは、主犯格たる埼玉の処理業者を指導すべき立場にあった埼玉県の廃棄物行政の責任を問うことができなかったこと、そして、首都圏をはじめ全国各地の排出事業者に対し適正な処理委託をするよう指導する立場にあった排出者側の自治体(東京都など)に、純然たる被害県としての岩手県が強いられた80億円程度の自己負担に対し何らかの形で肩代わり(支援)を求めることができなかったことなのです。

要するに、首都圏をはじめとする排出側の行政の責任を問うことが、県境事件ひいては増田知事の大きな宿題として残りました。

私は平成16年前後に日弁連の委員会活動を通じて岩手県職員の方からお話を伺う機会があり、増田知事も解決のため一定の模索をしていたことは間違いありません。

だからこそ、そのときの増田知事を知る岩手県民は、都知事選にあたり「時に、首都圏のエゴの犠牲を強いられた、地方の悲しみ、苦しさを東京の人達に伝えることを忘れないでいただきたい、地方を知る者として、地方と東京がよりよい関係を築くため、東京のあり方を大きく変え、日本全体を改善する姿勢や手法(政策)を強く打ち出していただきたい」と願っていることは確かなのです。

そうした期待を背負っている増田氏に打ち出していただきたい言葉が、小泉首相に倣えば、「(地方の立場から)東京(のエゴ)をぶっ潰す」であることは、申すまでもありません。

この一言を増田候補が叫んでいただければ、全国の多くの地方住民が賛同し、ほどなく、その真意を知った東京都民も、これまでの東京のあり方を問い直し再構築してくれる指導者として増田氏を支持するに至るということも、十分に期待できるのではないでしょうか。

それだけに、「ぶっ潰す」対象の一つではと感じる自民党都連などの勢力が増田氏を担いでいるという構図や、増田氏が今も同じ思いを感じておられるのかあまり伝わってこない選挙報道を眺めていると、岩手県民としては残念というか、寂しいものを感じ、どなたか(ご自身を含め)、増田氏を解き放っていただきたいと感じる面はあります。

また、このように考えれば、都民が小池氏に求めるものも、より鮮明になると思います。

東京から日本の閉塞的な政治文化をぶっ壊せるのか

増田氏が「東京的なるものとの対決」を掲げる責任(歴史)を背負っているのだとすれば、小池氏は、現在の都議会(自民党都連)との対決に象徴されるように、政界を渡り歩き、小沢氏や小泉首相など既存の政治の中心勢力と対決する道を選んだ大物に従い、何らかの形で旧勢力と闘ってきた人と言えます。

小池氏を支持する方々は、政治を壟断している(自分達の影響力の確保を優先させて社会に閉塞感を与えている)と感じる旧勢力と同氏が闘うのを期待しているでしょうし、そうであればこそ、小池氏には「大物都議や自民党都連との対決」という対人的な話に矮小化させず、日本の都道府県議会制度そのものについて「問題の本質」を指摘し、変革を呼びかけることが求められており、それは、兵庫県議会の事件に象徴されるように国民全体が期待していることと言えるでしょう。

橋下市長や維新の会が一定の成功を納めたのは、行政機構(住民に不信感を抱かれていた行政の実情など)の変革を旗印にして、それに取り組んだことが庶民の喝采を浴びたからだと思います。

小池氏が都庁や都議会の改変に取り組んで成果を挙げ、官庁や国会の変革も促す動きも見せるなら、裾野の広い政治勢力を構築し、小池氏が全盛期の小沢氏や小泉首相の後継者のような地位を獲得していくことも、不可能ではありません。

先日の参院選で自民党を大勝させた民意は、「憲法改正(立法や行政の見直し)に向けた議論は期待するが、自民の改憲案(人権規定の改変)は支持しない」ものであることは、多くの国民が感じているところだと思います。

だからこそ、その民意に応える形で、小池氏には「東京から日本(の閉塞的な政治文化)をぶっ壊す」と叫んでいただければと感じています。

増田氏か小池氏かという選択は、地方との関係性を重視した東京の変革か、国家との関係性(自民党など国側への影響)を重視した東京の変革か、どちらを志向するかという見方ができ、そうした観点から議論が深まればと願っています。

小保内義和  弁護士(岩手県盛岡市)

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