【映画評】パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト

スペイン南部、アンダルシアに生まれたパコ・デ・ルシアは、7歳でギターを手にし、父と兄の手ほどきで才能を開花させる。兄と共に活動していたパコは、12歳にしてプロデビューし、やがて舞踊家ホセ・グレコのアメリカ公演に参加する。天才歌手カマロン・デ・ラ・イスラと出会い、フラメンコの枠を超え、多くのギタリストと共演。新たなアルバム作り、世界ツアーと積極的に活動する。2014年にメキシコで急逝したパコの栄光と苦難の軌跡を、彼の素晴らしい音楽と共に、ゆかりの人々へのインタビュー、音楽に対する完璧主義を貫いたパコ本人の肉声を交えて紐解いていく…。

2014年に66歳で急逝した、スペインが誇る天才ギタリスト、パコ・デ・ルシアの功績に迫る音楽ドキュメンタリー「パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト」。パコの息子のクーロ・サンチェスが初監督を務めている。フラメンコやダンサーに関するドキュメンタリーは多く見ているが、ギタリストを取り扱った記録映画は、私にとっては新鮮だ。だが、パコ・デ・ルシア(本名フランシスコ・サンチェス・ゴメス)の超絶技巧のギター演奏の素晴らしさに触れたとたん、圧倒され、あっと言う間に魅了されてしまった。

パコ・デ・ルシアとは、いわゆる愛称で、ポルトガル人の母親ルシアの名をとって“ルシアの息子パコ”という意味らしい。何しろパコは早熟の天才にして、徹底した完璧主義者。音楽に対しては、自分にも他人にもすさまじく厳しい。そのストイックな姿勢は昔ながらの職人のようだが、やはりこの人は天才ミュージシャン。しかも、かなり革新的な人だ。フラメンコの世界は伝統を重んじるが、パコはその伝統の枠から果敢に逸脱していく。それを批判する人も多い中、苦悩や葛藤もあったと思うが、サンタナやチック・コリアらとの共演から即興演奏に目覚め、やがて誰もが認める世界屈指のギタリストになっていく。

一方で、パコの人生は孤独なもので、自ら、あまりにも音楽に対してのめりこむために、他人と暮らすのは無理なのだと語っている。この人は孤高のギタリストで、生涯をかけて音楽に人生を捧げた人なのだ。フラメンコとそれに関わる音楽の歴史には、長く続いたフランコ独裁政権の影響も色濃いのだが、映画は政治色は抑えて、あくまでもパコの音楽性を前面に押し出した作りだ。何しろ、作品中に流れる音楽を聴いているだけでも至福の音楽体験。名演奏に酔いしれてほしい。
【60点】
(原題「PACO DE LUCIA A JOURNEY」
(スペイン/クーロ・サンチェス監督/パコ・デ・ルシア、チック・コリア、カルロス・サンタナ、他)
(孤高度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年7月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。