憲法第9条を「絶対に守る」二つの理由

2016年08月07日 14:32

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外務省によれば、尖閣諸島の接続水域に中国の漁船約230隻と海警局の船6隻が侵入した。このような大規模な示威行為は前例がなく、南シナ海についての仲裁裁判所の判決を受け入れるよう日本が求めていることへの抗議とみられる。尖閣でも徐々に既成事実を積み重ね、南シナ海のように支配下に置こうということだろう。

蓮舫氏のように「憲法9条は絶対に守る」という人々にききたいのは、こういうとき戦力も交戦権もなしで、国民の安全は守れるのかということだ。彼女のような一国平和主義を正当化できる論拠は、2種類しかない。

一つは、日本を攻撃する国は存在しないと証明することだ。50年代の安保論争で「全面講和」派はこう主張した。丸山眞男は1950年12月に発表した論文「三たび平和について」で「アメリカ民主主義が一層計画原理を導入して、大企業をコントロールし、失業の駆逐に向かうと同時に、ソ連共産主義がその専制的閉鎖的性格を緩和し、市民的政治的自由を伸張する」ことによって米ソ対立は打開されると書いた。

しかしこれは、論理的には答になっていない。「戦争が起こったら非武装・非同盟でいいのか」という批判に対して「戦争は起こらない」と想定しているだけで、起こった場合どうするかは語っていないからだ。事実、彼の主張は50年6月に起こった朝鮮戦争で反証されていたのだが、それにはひとこともふれていない。

もう一つの根拠は「攻撃されても反撃しないほうがいい」という無抵抗主義だ。1974年に森嶋通夫は「徹底抗戦して玉砕して、その後に猛り狂うたソ連軍が殺到して惨澹たる戦後を迎えるより、秩序ある威厳に満ちた降伏をして、その代り政治的自決権を獲得する方が、ずっと賢明だ」(「新『新軍備計画』」)と書いた。

これは経済学者らしく論理的に一貫しており、日本を攻撃する国が存在しないという証明も必要ない。しかし問題は、戦争より他国に占領されるほうがましかということだ。アメリカに占領された日本は幸運だったが、ソ連に占領された東欧諸国や中国に占領されたチベットはどうなったのか。

国際法を公然と無視する中国の行動は上の第一の理由を反証しているので、蓮舫氏が第9条を絶対に守る論理は第二の理由しかない。彼女は「戦争するよりチベットのようになったほうがいい」と考えているのだろうか。それなら、そういう無抵抗主義を明示して安全保障を論じるべきだ。それなしで憲法の条文をいくら議論しても、国民の生命は守れない。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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