外相会議に見る中国の苦悩

岡本 裕明

一時は開催すら危ぶまれた日中韓外相会議が東京で行われました。テーマが多い中で北朝鮮はまた一発、日本海にミサイルを撃ち込むというスタンドプレーを行う波乱もありましたが、私なりに読み解くと今回の外相会議、やはり、中国の苦悩が見え隠れしています。

尖閣問題。岸田外相と王毅外相の個別会談の内容を拝見するかぎり、王外相が「現在の事態は、すでに基本的に正常に戻った」と述べ、過去形の表現で終わった話のように聞こえます。では、あの騒ぎは何だったのだろうか、と考えると今、本気で尖閣問題を日本と争う気は毛頭なく、中国の国内事情ではなかったのかと察します。

8月上旬に開催された中国の非公式ながらも駆け引き上、極めて重要な北戴河会議が開催されました。習近平国家主席は自己の権力を誇示するためには共青団の批判をかわす必要がありました。特に南シナ海での人工島についてオランダの仲裁裁判所で中国の行為を完全に否定され、外交上の威信失墜の危機にあったわけです。そのためには中国軍部を実体的に掌握した習国家主席は「実力行使」でパフォーマンスに臨む必要がありました。

中国は尖閣にジャブを入れるだけで端から本気で何かをしようと企てていたとは思えず、いつもの挑発を繰り返し、「もしもなにかの手違いで日本がちょっかいを出して来たらそれに乗じて一気に外交力で日本を圧倒して島を奪取する」つもりであったのでしょう。日中戦争のあのきっかけと同じです。

王外相の発言からは習近平国家主席の国内権力争いのゲームは終わり、尖閣問題もこれでいったん片付く気がします。

ただ、これで平穏な状態に戻ったとは思えません。一つはさっぱりコントロールが効かない北朝鮮の行動であります。金正恩最高指導者はいったいどこを向いて何をしたいのかわかりにくいところに悩みがあるのでしょう。北朝鮮の暴発や国内の崩壊は国境を接している韓国と中国に多大なる影響が出てきます。特に朝鮮北部は高句麗の時代から中国北部との関係が深く、いざというときは中国の地域経済にも深刻な状況が生じます。

かといって中国は北朝鮮を袖にするわけにもいかない微妙なその外交ゲームとは韓国が装備するミサイル迎撃システムTHAADに反対する以上、敵の敵は味方になるその論理でありましょうか?

ところでジョージソロス氏が現在は2008年の危機の到来を思わせると発言してることに注目しております。彼の場合、ポジショントークである可能性も否定しませんが、世界の動きに不信感が漂っていることは確実でしょう。その具体的心配内容もいくつかパッと思いつきますが、実は中国の不安感が最大の懸念ではないでしょうか?

理由は欧州や英国の問題も大変だと思いますが、その実態、そして解決に向けたプロセスは比較的透明であり、ディスクローズされます。ところが中国は実態がわからず、国家がどのような不良債権を抱え、経済成長率はどうなのか、実にわかりにくくなっています。

例えば最近特に鉄鋼の生産地などに於いては地域経済はマイナス成長に陥っているとされ、6%半ばの国家全体の成長率とはかなりかけ離れたものになっているようです。中国国内の経済の温度差は思った以上に厳しいものが想定され、ゾンビ企業の扱いにも注目が集まります。影響力が大きすぎてつぶせない企業も多く、支払が6回滞った企業がまだ、生き残っているという記事もありました。

習国家主席の最大の懸念は国内のストライキだとされ、民衆のパワーがある日突然違うベクトルに向かうリスクを心配しているようです。これはとりもなおさず、習国家主席の気持ちに余裕がないと断じてもよいかと思います。

日中韓外相会議に於ける岸田外相は頼もしく映りました。日本がこれから注力しなくてははいけないのは外交力、交渉力と共にNOと言える強さでしょう。それには政権の安定感が最大のキーではないかと思います。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 8月25日付より