【映画評】奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ

歴史教師アンヌは、貧困層が暮らすパリ郊外のレオン・ブルム高校に赴任する。そこは、様々な人種の生徒たちが集められた落ちこぼれクラス。生真面目だが情熱にあふれたアンヌが、歴史の楽しさ、学ぶことの大切さを教えようとしても、生徒たちは問題ばかり起こしていた。ある時、アンヌは全国歴史コンクールへの参加を生徒たちに提案する。当初彼らは“アウシュヴィッツ”という難しいテーマに反発するが、強制収容所の生存者を授業に招いたことから、彼らの意識は変わっていく…。

落ちこぼれクラスの生徒たちが情熱あふれる歴史教師と共に全国歴史コンクールを目指すヒューマン・ドラマ「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」。多民族国家フランスの教育現場を描いた作品といえば、ドキュメンタリー映画「パリ20区、僕たちのクラス」がすぐに思い浮かぶ。本作は実話がベースになっているが、あくまでも劇映画で、問題児ばかりのクラスを一人の教師が変えていく様は、フランス版の金八先生といったところだ。人種も宗教も家庭環境も違う子どもたちは、生意気で自己主張が強く、口を開けば屁理屈ばかり。どうせ自分なんか…という諦念もしみついている。

ユダヤ系の子もいるのに、いきなりアウシュビッツなのか?!と最初は首をかしげたくなったが、ヨーロッパではホロコーストは絶対に忘れてはならない負の記憶だ。今までアンヌ先生に反発ばかりしていた生徒たちが、強制収容所の大量虐殺を奇跡的に逃れた生存者が語る壮絶な体験を聞くと、その日を境に変わり始める。アウシュビッツの生存者の言葉とは、それほど強いインパクトを持つメッセージなのだ。

だが、日本でも原爆の記憶が薄れ、戦争体験者の高齢化が叫ばれるのと同じように、ヨーロッパでもホロコーストの記憶が薄れている現実には、考えさせられてしまう。それでも歴史の重みを知った生徒たちが「自分たちが語り継ぐ」と自覚したことは、大きな希望だ。本作は、当時18歳だったアハメッド・ドゥラメ(生徒役で出演している)が自身の体験を基に、マリー・カスティーユ・マンシオン・シャール監督と脚本を共同執筆して作り上げた。

受験中心の勉強とは対極にあるこんな教育は、確かに困難で、実際には、移民国家、多民族国家のフランスならではの複雑な問題もあるはず。いわゆる“いい話”にまとまっているのは単純すぎるようにも思うが、それでも生徒と教師が共に目指した“共存共栄”の実話は、小さいが忘れられない輝きを放っていた。「受け継ぐ者たちへ」という副題がそれをよく表している。

【60点】
(原題「LES HERITIERS」)
(フランス/マリー・カスティーユ・マンシヨン・シャール監督/アリアンヌ・アスカリッド、アーメド・ドラメ、ノエミ・メルラン、他)
(継承度:★★★★★)


編集部より:この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年8月24日の記事を転載させていただきました(動画はアゴラ編集部で公式YouTubeよりリンク)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。