会議の否定的意見がモチベーションを下げる元凶だった

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写真は、講演中の沖本るり子

以前、ある会社を訪問した際の出来事である。その会社では、新人に、仕事を覚えることを目的として会議の議事録を書かせていた。ところが、新人に対する評価は手厳しい。

「いまの若い奴は文章がなってない。メモをろくに取れないし議事録もひどいものだよ。あのレベルじゃお客様を振ることはできないね」。私は次のように聞いた。

「皆さまは議事録が書けると思うのですが誰から教わったのですか。同じように教えてあげたらいいじゃないですか」。「いやいや、ちゃんと教えているはずなんだがね」と部長。

「それ伝えてるつもり病かもしれません」と答えるのは、『相手が“期待以上”に動いてくれる! リーダーのコミュニケーションの教科書』(DO BOOKS)の著者であり、企業向けの人財育成を手がける、沖本るり子氏(以下、沖本)である。

■やる気マンマンのモチベーションが下がる時

入社当時はやる気マンマンでも、月日が経つにつれモチベーションが下がってくる人は多い。モチベーションは成果に影響を与えるので維持できることが望ましいが、モチベーションの維持は決して簡単ではない。

そのため、多くの会社ではモチベーションアップを目的にした取り組みや研修などを導入しているが上手くいっていない現状がある。

「社員のモチベーションが上がらないのは“会議の方法”に問題があるのかも知れませんね。会社では定期的に会議が開催されるものです。様々な立場の人が集い役職や部署間を越えた自由闊達な意見が交わされることを期待しますが、なかなかそのようにはいかないものです。」(沖本)

現実的な問題として多くの社員は「会議」が好きではない。好きどころかネガティブな印象を抱いているものである。その理由はなんだろうか。

「ここで一つ、よくある会議の事例についてお話しましょう。ある会社の社長が営業マンのモチベーションが低いことを会議で指摘したと仮定します。いま、各営業部門の部長が対策について協議がおこなわれています。」(沖本)

A部長 社長もあのように言っていることだし、モチベーションを上げるための研修を導入してみては如何だろうか。

B部長 反対です。経費削減のなかで研修を導入する余裕などありません。貴方の部門だけやればいいじゃないですか。営業マンを甘やかすのではなくもっと厳しくすべきです。

A部長 だったら、B部長は具体的になにをやれば良いと思っているのですか。アイデアがあるなら教えてください。

B部長 いや。アイデアはいまから考えようと思いまして。

A部長 アイデアも無いならケチをつけるのは止めてください。不愉快です。

C部長 B部長はいつもネガティブな意見ばかりでやり難いですね。

「このような光景を見たことはありませんか。A部長は、B部長に考えを否定されて頭にきています。B部長は、なぜそこまで言われなければいけないのかと頭にきています。C部長はA部長とB部長に否定的な感情を抱いています。参加者が会議のルールを知らないことでこのような事態を引き起こしているのです。」(同)

確かに、反対意見や否定的意見は場の雰囲気を悪くするので嫌われることが多い。しかし、このような場合では。反対意見や否定的意見の重要な点も見逃してはいけない。

「会議は参加者の考えている意見を吸い上げるからこそ価値があります。全員がYESであれば会議の意味がありません。実は反対意見や否定的意見も必要なのです。会議の場において反対意見や否定的意見を主張する方法を知らないことが問題なのです」(沖本)

■ネガティブチェッカーはリスク管理につながる

反対意見や否定的意見はリスク管理につながり、事前に対応策を練るきっかけになると沖本は述べている。言いにくい意見だからこそ、事前に表に出しておく必要性があるのだろう。

「反対意見や否定的意見だけを全員で言う時間を設ける工夫をすればいい。どんな意見でも、思ったことを堂々と言える工夫があるからこそ、社員の仕事に対するやる気は上がり、積極的に話し合おうという気概が生まれるのです。」(沖本)

会議で大切なのは反対意見や否定的意見を言わせないことではなく、言わせるための工夫なのかも知れない。

PS

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尾藤克之
コラムニスト