G20で日本外交は敗北するのか --- 半場 憲二

1.岸田外相の笑い顔

わが国との関係はどうか。8月15日までに13日連続、尖閣諸島周辺で中国公船が確認された。接続水域では200隻以上の中国漁船が操業し、その周囲には15隻もの公船が存在した。5日から繰り返された領海侵入は20回以上に及び、海上保安庁から「退去警告」を受けた漁船数はこの5日間で去年一年間の70隻を越えた。これが異常事態でなくして何なのか?

あらゆる国際会議の場を使い、中国が言う『G7時代の薄っぺらな現実味のない話』に代わり、『G20において現実的な話をしよう』とやるのが日本の役割であり、主に海洋防衛を強化したい東南アジア諸国が追随する契機ともなろう。

だが8月24日、東京都内で行われた日中韓外相会議に出席した日本の岸田外相は中国の王毅外交部長、韓国の尹炳世外相と手を組み、何の成果も得られないのに笑っていた。G20におけるわが国の「外交的敗北」を予兆させる。

2.日本と杭州の関係略史

もう一つご紹介したいものがある。浙江省ウェブサイト日本語版の「浙江の音楽」という項目に、「浙江の音楽は源が長い。二十世紀七十年代、浙江余姚河姆渡遺跡で発掘された160点の骨哨(骨笛)及び陶塤(陶土笛)は、7000年前にわれわれの祖先がこの古い土地に音楽を種を蒔いたことを表している」(注:傍線筆者)とある。

日本人には計り知れない7000年前の話から始まるのが面白いが、わが国は杭州を戦時歌謡、軍歌「杭州小唄」として歌った時期があった。

作詞 萩廼家主人
作曲 山田耕筰

杭洲良いとこ西湖の畔
蘇提白提風そよぐ

青葉茂れる霊屋の中は
宗の忠臣岳飛廟

秦檜張俊裏切者よ
鉄の身体でひざまづく

雨の響きに夕べの鴉
五山テンビク寺帰り

この唄に出てくる忠臣岳飛は南宋の英雄である。宰相・秦檜は「南宋」と「金」この2つの国の講和を進め、反金派の要人らを殺し、自らの権力保持のために敵国・金の力を背景に恐怖政治を敷いた。のちに彼は国辱ものの宰相となった。

今日、岳飛廟には秦檜と共に妻がひざまづく銅像が置かれ、観光客が唾を吐きかける。さすがに「非文明的」ということで、近年は中止されたようだが、道行く者の中にはまだ「裏切り者」を許さないでいる。これが「中国式」である。

3.英霊を否定する歴史観

中国共産党は唯物史観を「信仰」し、「霊」の存在を認めない。「マルクス主義の歴史観は、歴史の原動力は人間の意識、観念にはなく、社会の物質的な生産にあり・・・」となり、霊の存在を認めると自己矛盾が生ずる。

だから秦檜のような見せしめ、歴史の原動力となるモノが必要なのだ。それこそが共産主義の本性、中国共産党の統治の方法なのであるから、日本人の靖国神社参拝に理解を示すはずもなく、今後の日本をどう扱うかは想像に難くない。

そうなると安倍晋三は日本では稀に見る宰相なのだが、中国人から見れば「罪人の資格」を十二分にあわせ持った秦檜のような存在となる。今回のG20にはどんな心体で望み、日本の国益を勝ち取るつもりだろうか?

4.中国と周辺国の動き

ベトナムは潜水艦をロシアから購入、対潜哨戒機の導入も検討し、インドネシアはナトゥナ諸島の軍事基地拡張に着手する。シンガポールは米軍の対潜哨戒機配備を許可した。しかし、肝心のフィリピンは9月6日にラオスで始まるASEAN首脳会議を前に、中国側に一定の配慮を見せている。実に危険な選択である。

桜井よしこ女史によれば、単純比較では意味をなさないとしながらも、『中国は日本の航空自衛隊の第4世代、最新鋭戦闘機10個連隊分に相当する300機をわずか3年で製造し、昨年段階で日本の293機に対して730機を数えた。そして、この1年でさらに80機増やして810機になった。中国は2020年の東京オリンピックまでに海軍主要艦を、270~280隻は持つだろう。世界最大規模のアメリカ海軍の保有する280隻に並ぶことになる。潜水艦では、わが国は現在16隻、20年までに22隻に増やす。中国はいまの71隻を20年までに100隻にする』という。日米同盟があるとはいえ、今や中国の軍事力の過小評価は間違いだという。

5.日本の主導的役割が必要

両国の外務官僚がすり合わせた文書では、すでに議長国に有利な形で落としどころができており、日本側の成果は乏しいものとなろう。日本の国益こと国家の主権に関する問題には一国の宰相がみずからの言葉で語り、毅然とした態度で抗議し、参加国の理解と賛同を得る必要がある。

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)ではアメリカ次期大統領候補である共和党のドナルド・トランプ氏だけではなく、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官までが反対の立場である。

中国が経済的格差等の国内問題を差し置き、現実の覇権主義的傾向を強めるいま、アメリカが国際秩序の再構築に関わらなければ、共産党が指導する国家による「パクス・シニカ」の誕生は近い。この数日間の対日友好姿勢に惑わされてはならない。日本の主体的な行動が求められている。

半場 憲二(はんば けんじ)
中国武漢市 武昌理工学院 教師

※画像は日本外務省サイトより。