JR九州の株式上場は顧客サービス低下を招く

JR九州の東証への上場が、10月25日になるという情報が朝日新聞に掲載された

JR九州は、いわゆる「3島会社」の中では優等生であることは間違いないが、「株式上場」に伴う弊害を、近年地元住民の私は痛感させられている。

JR九州は不動産事業が好調で、鉄道事業の赤字を埋める、という図式が続いてきた。その状況については、以前アゴラに記事を書いたので参照頂きたい。

民間の営利企業としては、採算部門を伸ばし、不採算部門を縮小し赤字を減らす、という経営戦略を取ることに問題はない。というより、正しい戦略である。ただ、それが公共交通を担う企業として、どうなんだろうというのが、地元住民の実感なのである。

上場企業になれば株主の多くは地元住民ではなくなるだろう。その株主の意思は、地元住民の利便性確保より会社の利益が上向くことであろうから、鉄道利用者の利便性が低下することは、全く問題ないことである。

JR九州が鉄道事業をどう捉えているのかは、会社の力の入れようでよくわかる。JR九州が重視しているのは「ななつ星」などの観光列車と新幹線で、他の路線にはコスト削減を進めるだけで全く力を入れていない。観光列車にお金を注ぎ込むのは、広告宣伝費と捉えれば安いものである。観光列車の収益が鉄道部門全体に与える影響は微々たるものなので、収益事業としては捉えられない。

ちなみに現在計画が進んでいる長崎駅の移設計画でも、鉄道利用者より駅ビルの方が大事そうである。それに関わる話を筆者のブログで書いているので、興味のある方は参照頂きたい。

 

では在来線の状況はどうなっているのか。筆者が住む長崎県の現状を紹介する。

長崎県内の代表的な路線は、長崎と佐世保を結ぶ長崎本線・大村線である。この路線が今、あまりにひどい状況になっている。

まずいつも混んでいる。座れない。それでも、車両を買うお金がもったいないから、増結しない。国鉄時代から使っているボロボロの車両を、まだ使っている。赤字路線に注ぎ込むお金はないのだ。そう、もともと大村線は黒字だったはずなのに、いつの間にか赤字転落しているそうである。

さらに、混んでいるからロングシートの車両を導入する。長崎とハウステンボス・佐世保を結ぶ快速「シーサイドライナー」にまでロングシートの車両を入れている。JR北海道の快速「エアポート」号と同じだ。それを知らない観光客が、ロングシートに座って弁当を食べる、なんていう状況が見られている。

この路線はバスが競合している。長崎−佐世保間だけでなく、長崎−諫早・大村という比較的短距離の区間でも高速バスが走っている。バス会社は「座れて早い高速バス」をアピールしていて、JRからバスへの顧客流出が止まらない。長崎−諫早・大村間は通勤利用も多い。通勤客は自宅の近くから乗れて職場の近くまで座って行ける高速バスの方が快適なので、鉄道からバスへ流れるのだ。

JR九州は、在来線は赤字部門でコスト削減しか考えていないので、ここに力を入れて顧客流出を止めよう、という動きにはならない。そんな所に投資する位なら、駅ビルに投資して利益を増やそう、という発想だ。上場企業としては、正しい経営戦略と言える。

 

顧客サービスを考えていない、という点では、小さい話になるがICカードの利用エリアにも現れている。長崎駅ではSuica互換のSUGOCAが使えるが、ハウステンボス駅や佐世保駅では使えない。そのため、長崎駅からSuicaで入場した観光客が、ハウステンボスや佐世保で降りる時に自動改札を通れず、有人改札が長蛇の列、という状況になっている。

 

この程度ならまだいいが、最近、あきれて物が言えなくなるというサービス切り捨てが始まった。

何と、コスト削減のために、快速・普通列車の座席をJR側が転換させないことになったのだ。

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ご覧の通り、椅子の向きがバラバラ。

これは客が適当に動かしてバラバラになったのではない。社員が椅子を転換しないなかで、一部の客だけが向きを変えるからバラバラになるのだ。

もちろん車両が1日走っている間にバラバラになるのなら仕方がない。何と車庫から出てくる時も転換させないので、朝一でホームに入ってくる時でも向きがバラバラなのだ。

利用者としては、せめて車庫に入って掃除をする時は椅子を回して欲しいし、駅での折り返しの時でも、たかだか2両編成とかなんだから、運転士が回して欲しいと思う。現状では、運転士や車掌が好意で椅子を回すと怒られるようだ。

「こんな所までコスト削減の努力をしているJR九州は素晴らしい」と、投資家の方々は感じるのだろうか。

 

長崎総合科学大学非常勤講師
前田 陽次郎