障害者支援のあり方とホスピタリティの重要性を考える

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左:橋本久美子(橋本龍太郎元首相夫人)、右:竹節義孝(山ノ内町長)、敬称略

近年、「ホスピタリティ」を重視する企業が増えています。ホスピタリティとは「思いやり」「心からのおもてなし」という意味です。サービス業、流通業などお客様と接する機会が多い業種はもちろんのこと、多くの企業がサービス向上の施策としてホスピタリティに注目しています。

今回は、ホテル経営にホスピタリティ教育を導入している「信州よませ温泉・ホテルセラン(長野県下高井郡山ノ内町)」の畔上吉雄専務に話を伺いました。

■私たちがホスピタリティ教育をはじめた理由

――ホスピタリティ教育を導入した経緯と活動内容を教えてください。

畔上吉雄専務(以下、畔上) よませ温泉は、北信州のほぼ真ん中あたりに位置し、志賀高原や北信五岳の山々に囲まれ、果物を中心とする農業の盛んな地域です。冬はスキー修学旅行、夏は野外体験型学習で、自然が豊富で、動植物が多岐にわたり生息しています。

また、標高が1000メートルと高いために、夏でも最高気温が30度を越える真夏日になることは極めてまれであり、熱帯夜になることは滅多にありません。例年10月中旬から下旬頃に初雪を観測し、11月に入ると本格的な冬を迎えます。

このような場所柄、学校の教育旅行や合宿などに利用されることが多く、早くからバリアフリー化につとめました。まずホテルのスロープ化をおこない段差を無くすようにつとめました。エレベーターには車椅子のまま乗ることができます。

廊下と部屋の間にも段差はありません。また、風呂に関しても入り口と脱衣場から浴場の間段差を極力無くし、貸切露天風呂は入口から浴場までバリアフリー対応です。身障者用トイレも常設し赤ちゃん用おむつ替えベッドも設置しています。

しかし、ホテルとしてのホスピタリティーを高めるには、ハード面以外に、社員の意識などソフト面の充実も大切だと考えていました。活動の一環として、東京の障害者支援団体であるアスカ王国(橋本久美子会長・橋本龍太郎元首相夫人)の活動を受け入れています。

地元の行政や市議会、学校関係者や障害者施設、多くのメディアが注目した活動となり、社員を含めた参加者の啓蒙に期待をしています。

■日本型ホスピタリティの実現を目指す

――これからのホテルの差別化ポイントを教えてください。

畔上 全国的にホテルの競争は熾烈なものになっています。当ホテルでは「ホスピタリティ」がホテルの差別化の要素になると考えています。宿泊者にとってホテルを選択する際の基準は様々ですが、そのベースにあるものは「ホスピタリティ」でなければいけません。

ホスピタリティ(Hospitality)は直訳すると接待、歓待、厚遇を意味します。語源を調べると、元々はラテン語でありHospitalityがHospital、Hotelに変化していったとあります。ホスピタリティには「客人が食事などを通してきずなを育むこと」の意味がありますので、その意義を大切にして日本的なホスピタリティを実現したいと考えています。

――日本的なホスピタリティとはどのようなものですか。

日本の代表的なホスピタリティの姿勢に「おもてなし」があると思います。一方で、海外は抽象的なものではなく具体的なサービスに重点が置かれます。今日がバースディだといえばケーキが用意されたり、求められれば従業員が歌を合唱したり、アーリーチェックインやチェックアウトの時間が延長されます。これらのサービスは元々は海外の事例を取り入れたものです。

しかし、海外でも日本でも共通しているのは、弱者を優先する姿勢です。身体障害者、乳幼児、妊婦などがお客さまの場合には、少しでも過ごしやすい時間を設けられるように最善を尽くさなければいけません。その意義を社員が理解をして行動にうつすことで日本的なホスピタリティの実現を追及していきたいと思います。

――ありがとうございました。

1972年に米国ペンシルバニア州裁判所は「障害の如何を問わず、すべての子供はその能力に応じて教育を受ける権利を有する」(PARC判決)と宣言しています。これは、差別的な教育に対する是正を求めたものであり、教育のダンピング(教育の放棄)を招く危険性があることへの警告です。

内閣府の平成26年度障害者雇用状況によれば日本における障害者数は、身体障害者366.3万人(人口千人当たり29人)、知的障害者54.7万人(同4人)、精神障害者320.1万人(同25人)であり、国民の6%が何らかの障害を有するとしています。障害者政策は私たちにとって喫緊の課題でもあるのです。

尾藤克之
コラムニスト

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