記事体広告のPR表示義務を巡る議論はナンセンスだ --- 本元 勝

寄稿

ヤフーステマ記事

「ステマ撲滅宣言」で注目されたYahooニュース編集部のブログ(アゴラ編集部)


最近ネットや雑誌の記事体広告について、PR表示のクレジットを義務付けるなどの規制導入が一部媒体などで進んでいる。これらは消費者保護の正義を掲げ講じられた措置であろう。

ここで問題は、記事体広告の全てがステルスマーケティング(以下、ステマ)と包括総称され、記事体広告自体が不適切であるかのように誤解されていることだ。

ステマとは、事実や実態に反する表現を用いて、優良誤認を誘発する欺瞞行為である。

しかし、記事体広告の本来の目的は、消費者に肯定的な興味、連想、欲求、比較を提供者が積極的に提示することで、消費者の商品やサービスへの理解促進を目的とする行為である。その中に消費者の肯定的な声や意見を採用すること全てが不適切だと言えるのだろうか。

実際、現在のテレビ・ネット・雑誌他、多くの宣伝広告の場面で広く採用されている手法は、肯定的な意見をもつ賛同者の声や意見を積極的に開示する、いわゆる記事体広告と同じ目的を持つ手法が多数を占めている。この手法は日本では50年以上前から使われている有効なマーケティング手法なのである。

一時騒がれた、女性タレントが使用・利用していないモノに対し、報酬を得て、効果があった! おいしかった! 得した! 等の嘘をブログに書いたという話題が世間を賑わした。ここで一番問題となったのは、重大な刑事犯罪に結果として加担したからなのである。

よってこれらと、記事体広告の問題は区別して考える必要がある。

しかし、そもそも世の中の噂や評価などに、高い信頼性などを求めることには大きな違和感をもつ。例えば、全国ネットのテレビで1日中垂れ流されているワイドショー的な番組で、文化人気取りのタレントやコメンテーターが話す意見など、殆どが無知、門外漢の無責任発言であり、聞きかじった情報を鵜呑みにした個人的見解に過ぎない。

誤解誘発は本当に憂慮するならば、まずは彼ら不見識なタレントやコメンテーターにメディアで社会性のある話題に対する発言をさせないことから始めるべきだろう。なまじ著名であるが故、こちらのリスクの方がはるかに甚大である。

話しを戻すが、記事体広告とは体験談的な語りやビジュアルを用いて構成していく。これらの体験談的露出手法は、テレビや雑誌の通販などでも広く使われており、田舎芝居風な、見るに堪えないものも多く存在するが、未だ採用され続け拡大しているには、それなりの理由がある。

ビジュアル、サイズ、使い方、成分、効果効能、強みなど競合との比較情報を積極的に開示することで、提供者側にとっては、消費者の商品やサービスに対する理解が進むことで、購買心理に強く働きかけることが出来る。次に消費者側のメリットは、自分でいちいち説明書を読むなど、時間の掛かる確認作業が省けマニュアルレスになる。結果、選択に必要な判断材料を短時間で得られることになる。

食べログ・ぐるなび・価格コム。これらのような口コミ・比較サイトといわれるものも、結局全てが基本的に広告媒体なのである。勿論、一般ユーザーの投稿もあるが、その中にも多数の広告が存在しているのは周知の事実である。それでも消費者が利用するのは、何故だろうか?

PRクレジットの義務付けや記事体広告の排除などの議論は、営業マーケティングの専門家からすれば全くのナンセンスである。また、情報氾濫時代だからこそ、消費者は自分の選択の判断に必要な材料を広く求めているのだ。口コミやシェアなどの伝播形態からの情報収集が主流になっているのもその表れだ。

そして、消費者の価値観は複雑多様化している。定型な情報ではなく、ポジティブもネガティブも含め、あらゆる情報が求められているのだ。ちなみに、本稿筆者である私自身も商品やサービス選択の際は、必ず記事体広告などを中心とした比較情報を利用して、判断と選択を行っている。

また、これらの議論は、ネット情報の匿名性を全否定することと同様である。匿名性を全肯定するわけではないが、匿名だからこそ、多数の意見や情報が集まりやすくなり、その結果として事実や自分が求める情報が見つけられることもあるのだ。

ノンクレジットや記事体広告を排除した時点で、提供者は軋轢などのリスクを恐れた結果、A社B社比較など、誰と比較しているのか全く不明で、比較していることさえ疑わしい、誰の役にも立たない情報が溢れだすだろう。この保護規制が果たして現代の消費者の行動様態に合った正しい標識といえるのだろうか。

勿論、これらの記事広告のメリットを正しく享受する前提として、消費者側は、それらを判断する能力を身に付けること。また、提供者側は、ミスマッチを誘発するような虚偽や誇大な表現を避けることが必須の条件であることは言うまでもない。

 

営業マーケティングコンサルタント
東京商業支援機構 代表取締役
本元 勝