オリンピック・パラリンピック調査報告は4章立てです

9月29日のオリパラ調査報告書は、4章立てです。

序章は、「調査の前提(基礎知識の確認)」。ここでは、オリパラの基本を確認します。というのは、過去の記事には間違った内容が多い。特に「立候補ファイルに比べて費用がxx倍に膨れ上がり・・」というのは、嘘ではないけれども曲解に近い表現です。立候補ファイルの「費用」には、ルールによって基礎的な工事分しか計上できません。ロンドンでもリオでも立候補ファイルをはるかに超える費用が掛かっていますが、当たり前です。

だから「膨れ上がっている」かどうかは別の視点から見ないといけないのです。さらに、専門用語。IF、NF、オーバーレイ、仮設施設、恒久施設、仮設転用、FOB、サブトラックなど未知の用語がたくさんでてきます。これらの確認が必要です。

加えて、なぞが大きいが「オリンピック組織委員会」。チケット販売などオリンピックの収入はここに入ってきます。大会運営の費用もここが出します。ここはIOCの日本代理店のようにみえるし、わが国の大会運営全体の総元締めにも見えます。そして元総理が会長です。ここは都庁が97.5%を出資(出えん)する都の外郭団体でもあり、国は一切お金を出していない。なんとも不思議な位置づけの公益財団法人です。

ちなみに組織委がやっていたオリンピックのレガシーを語る有識者会議は最近まで非公開でした。「どうやって国民のみなさんの参画を得るか、盛り上げるか」を非公開の会議で語る・・というのは、企業の販促戦略会議とみれば違和感はありません。しかし、一部委員からも公開にすべきと指摘されていたし、何千億もの税金を投入するオリンピックの進め方としてはどうなのか、都民ファーストや情報公開の視点からは疑問です。

ちなみに出えんというのは寄付。都民のお金があそこに預けられ、戻せないのです(スポンサー収入もあるので全部を税金に依存するわけではありませんが)。それで地方自治法を調べてみたら、知事の調査権に加え、都庁の監査委員会の監査の権限もあると分かりました。賃料はどうか。誰か幹部がファーストクラスで海外旅行をしていないか、スイートに泊まっていないかなど都庁は調査ができるとわかりました。

さて第1章は「これまでの調査でわかったこと」です。ここでは都民が疑問に思っていることにこたえる形で調査結果を報告し、何が課題かを報告します。

もちろんすべてが分かったわけではない。たった4週間ですからまだわからないことも多いし、資料も全部はそろわない。ヒアリングも都庁はだいたい終えましたが、組織委員会はまだほんの入り口です。事務総長や会長にもまだお会いできていない。

しかし事件は現場で起きています。それで長年の経験に照らし、一体全体どういう構造になっているのか、だいたいつかめた気がします。なので今後は組織委や都庁の各部署に自己点検と説明を求めていけばよいわけです。すると皆さん優秀でまじめな方々です。おのずから軌道修正が始まるでしょう。

それで、全体としてどうなの?と問われれば、そこは、なかなか・・「いや、まだ4年あります。本気でやり直せばなんとかなるはず。いや、何とかしなければなりません(汗)」という感じでしょうか。

このまま推移したら、ろくでもないレガシーがあとに残る。逆にここで根こそぎ、ひっくり返し、大転換をしたら明るい未来が開ける。私にはそういう状況だと思われます。

いったい誰が悪いのか?とよくきかれますが、誰も悪くありません。ただ、複雑なシステムの巨大マシーンであるオリンピックを動かす経営体制がありません。驚くほど経営が中空・・ここにもいつ誰が掘ったのか謎の巨大な地下空間が広がっていました。

でもその上には、まじめにこつこつ作業をする現場の人々がいます。知事の座右の書に『失敗の本質』がありますが、まさにあれです。現場はまじめ、経営は不在。残念ながら、帝国陸軍みたいな話になりそうです。

第2章は「都庁の施設建設について」です。主に「海の森」「アクアティックスセンター」「有明アリーナ」について評価結果を公表します。まだ不明な点だらけですが、大きな課題はだいたいわかりました。今まで報道されていない話も出てきます。本部会議の報告だけで理解されるのはなかなか厳しいと思われます。プレスの皆様は、この3つについて、念入りな予習をお願いします。

なお、私たち調査チームが知らない事実、海外事情、その競技特有の苦しい事情もあるでしょう。そうしたご意見はぜひ、改革本部事務局におよせください。競技団体などの専門家からの意見は大歓迎です。いただいた意見はすべて公開し、今後の検討の参考にさせていただく予定です。またご意見や申し入れはすべてメディアにフルオープンで改革本部としてお話をお聞きしたいと思います。私たちの調査の及ばないところをぜひ、メディアのみなさんに解明いただきたいと思います。

第3章は「今後の課題」。ここでは、本部長である知事に今後、都としてやるべきことを整理して、課題提起します。ちなみに報告書は、あくまで本部長への提言です。「次どうするか」は、それを受けて知事が慎重に判断されます。

たいていの場合、担当局に追加の詳細調査を求め、提言の妥当性を局長以下でチェック&議論するよう求め、出てきた意見も参考に決断をされます。もしかしたら自らすぐにアクションをとられることもあるでしょう。

なかには時期をみる、あるいは今はまだ決断されない事項もあるでしょう。私たち調査チームの仕事は、あくまでも知事に豊富な判断材料と選択肢を提供することです。そして報告書を契機に担当副知事と担当局に自律改革をお願いすることです。

以上がだいたいのあらましです。第2回本部会議の様子はメディアにはフルオープンとなり、ネットでも中継されます。報告書も即日、公表されます。

豊洲問題が連日、報道されていますが、豊洲はもうできてしまい、5800億円は使われてしまった。あとはいつ移転するかだけです(そのために豊洲の安全確認を待つ)。あとはすでに起きてしまったことの解明です。

ところがオリパラは、まさにこれから。幸い、2兆ともいわれる資金はまだ使われていない。あと4年、しかし、たった4年。問題の大きさに比べ残された時間の短さに驚き、今回は4週間でだいたいの調査を終えました(そのせいで夏休みがなくなったんでつらいけど・・)。

でも来週から新学期。学生たちとの再開が楽しみです。都庁に通うより、SFCに通う方が楽しい(当たり前か)。しかし、気が付くとゼミで読む『善の研究』(西田幾多郎)やらいろんな本をまだ読みおえていない(全部大昔には読んだけど)・・私に残された時間はごくわずか。こちらのほうも問題の大きさに比べ残された時間の短さに驚き、自律改革を迫られています。

最後になりましたが、調査にご協力いただいた職員のみなさん、組織委員会のみなさんにお礼を申し上げます。


編集部より:このブログは慶應義塾大学総合政策学部教授、上山信一氏のブログ、2016年9月24日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は東京都サイト「知事の部屋」より引用)。転載を快諾いただいた上山氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、上山氏のブログ「見えないものを見よう」をご覧ください。