森さんとの付き合い方

早川 忠孝

森元総理は座談の名手で、長時間森さんの話を聞いていても飽きることはない。
裏表もなく、根が正直で、腹が黒くないから、悪い人ではない。
いや、むしろいい人の筆頭のようなところがある。

腹に一物も二物もあるわけではないから、腹の中にあることを滅多に隠すようなことはない。
後ろからバッサリ、などということはないから、まあ、信頼していい。

しかし、人は悪くなく腹も黒くなくても、いつもいい人ではない。

時には始末に負えないような駄々っ子ぶりを示すことがある。
何か一つの思いに捉われると、それに拘り、自分の言ったことに固執し、周りの諫言には一切耳を貸さない、というところがある。
大人なんだが、子どもっぽい。
一度言い出すと、なかなか言い止まない。

座談の名手だから、誰を相手にしてもよく喋る。
相手が報道陣だと特に舌の回りが滑らかになるようで、報道陣が思わず耳をそばだてたくなるようなことを次から次へと喋る。

もういい加減にして止めてください、それ以上踏み込まないでください、などと周りから声を上げても、そういう周りの声に益々反発して、話を続ける。

話をするだけで、それ以上に何かの仕打ちをしたり、工作をするわけではないが、ご本人は自分が正しいと心から信じておられるから、森さんの口撃の対象になった人は誰にしても傷付く。
どんなに強い人であっても、公衆の面前で批判されたり、冷たいあしらいをされたりすると傷付かないはずがない。

森さんは、実に始末に負えない人である。
森さんの口に蓋をするのは、難しい。

私は、清和政策研究会の総会で森さんが閣僚人事についての不満を延々と述べ立てていた場に立ち会ったことがある。
自分が推薦した人が閣僚に登用されなかったことについての不満である。

おそらくは、派閥の推薦を無視して小泉さんが自民党に入党したての人を閣僚に登用したことに対しての憤懣やるかたなさと、次は君の番だ、と派閥が約束し推薦したのに、結局は閣僚になれなかった人への慰藉の気持ちなどがないまぜになっての発言だと思うが、聞いている者がおもわず顔を顰めなければならないような発言が何分も続いた。

槍玉に挙げられたのが、小池さんである。

石原さんの物言いよりも酷く、多分小池さんは森さんの演説中、その場にいるのがいたたまれないような思いになったはずだ。

よくぞ、我慢した。
よくぞ、あの暴言に堪えた。
当時、そう思ったものだ。

今の私だったら、抗議とは行かないまでも、いい加減にしたら如何ですか、ぐらいの声を上げたかも知れないが、誰一人として物を言わないのに、派閥の末席にいる者が声を上げることが出来るような雰囲気ではなかった。

私が小池さんの味方をするようになった遠因は、多分この日の清和政策研究会の総会にある。

人の本性はそう簡単に変わるものではない。

悪い人ではないが、森さんの口は悪い。
座談の名手だが、時には黙ってもらっていた方がいい、ということがしばしばある。

まあ、そういう人だから、森さんの口に蓋をすることは誰にしても難しいだろうな、と言わざるを得ない。

小池さんとしては、世論を味方にして勝つ以外に方法はない、と覚悟しておかれた方がいいだろう。
言わずもがなのことだが。


編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2016年10月3日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた早川氏に御礼申し上げます。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。