首相経験者のロビー活動に規制を

2016年10月23日 11:00

欧州では首相や閣僚経験者がその職務を終わると、大企業や外国首脳の個人顧問やロビイストになるケースが結構多い。退職後、のんびりと隠居生活に入る政治家は少ない。欧州では「元首相」「元高官」というキャリアは結構、ビジネスになるのだ。

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▲ロビイストとして大活躍するオーストリアのグーゼンバウアー元首相(オーストリアの社会民主党のHPから)

一国の首相や閣僚、国際機関のトップなどを歴任した人物には退任後も様々なところから声がかかる。相手側は現職時代に培った経験、特に人脈が欲しいことは明らかだ。企業だったら、首相級のロビイストを雇い入れることができれば、商談などにも有利になることは間違いないだろう。だから、現職時代の数倍の給料をオファーしても元手が戻ってくるというものだ。

最近、驚いたのは欧州連合(EU)委員長を10年間勤めたポルトガル元首相のジョゼ・マヌエル・ドゥラン・バローゾ氏(委員長任期2004~14年)が世界最大の投資銀行、米ユダヤ系銀行「ゴールドマン・サックス」の社外代表取締役会長に就任するというニュースだ。

バローゾ氏は20日、スイス・ジュネーブ大学主催の討論会に招待されたが、そこで同席したオーストリアの野党「自由党」の大統領候補者ノルベルト・ホーファー氏が欧州に殺到する北アフリカ難民をアフリカ内で収容する案を述べると、「第2次世界大戦のナチス・ドイツのユダヤ人強制収容所を想起させる」と述べ、批判したのには驚いた。バロ―ゾ氏はいつから極右系政党「自由党」の政治家をナチス・ドイツと同列視して批判するようになったのか。EU委員長時代には耳にしたことがない。

理由は簡単だ。世界ユダヤ人協会はオーストリアの極右派政党「自由党」を常に反ユダヤ主義として批判してきた。そしてバローゾ氏は現在、そのユダヤ系銀行の幹部なのだ。一種のロビイストである。バローゾ氏が突然、自由党政治家への批判のトーンを高めたとしても不思議ではない。ちなみに、ホーファー氏はバローゾ氏の批判に対し、「あなたは今はお金持ちですね。あなた自身、難民を家で収容していますか」と皮肉を言って反論している。

オーストリアではロビイストになる首相経験者が多い。ヴェルナー・ファイマン前首相(任期2008年12月~16年5月)が首相退任後、最初にしたことはロビイスト登録だ。そして知人の潘基文国連事務総長から「青年失業者対策の国連特使」の仕事を手に入れている。国連特使は基本的には無給だが、社会的に箔がつくから今後の仕事にプラスとなる。

オーストリアのアルフレート・グーゼンバウアー元首相(任期2007~08年)、英国のトニー・ブレア元首相(1997~2007年)、イタリアのロマーノ・プロディー元首相(06年~08年)、独のオットー・シリー元内相(1998~2005年)はいずれもカザフスタンのナザルバエフ大統領(1991年12月就任)の私的顧問役に、独ゲハルト・シュレーダー元首相(任期1998~2005年)はロシアのプーチン大統領の個人的な顧問、といった具合だ。欧州では、ロビイストに転向した元首相、閣僚のリストは長いのだ。

例えば、グーゼンバウアー元首相は冷戦時代、当時のソ連を訪問した時、飛行機から降りるとローマ法王のように地べたに接吻したほどの典型的な左派政治家だった。現職時代は「労働者の代表」を標榜していたが、政界から引退すると、欧米社会から人権蹂躙や野党弾圧などで批判を受けているナザルバエフ大統領の知恵袋として活躍。彼は1年間余りしか首相を務めていないが、キャリアをその後の人生で最も有効に利用している政治家の一人だ。いずれにしても、社民党出身者が政治家を退職後、大企業とかロシアなど国のロビイストになるケースが多いのは面白い。

首相経験者が公職から退職後、特定の個人、企業、外国政府のロビイストになるのはやはり良くない。オーストリアの場合、政治家、閣僚経験者には政治家年金がつく。生活に困るということはない。もちろん、贅沢な生活を願えば、年金生活では難しいから、声がかかれば、ロビイストとして活動する元首相、閣僚経験者が出てくる。政治家の公職後の職種について、一定の規制が必要だろう。

蛇足だが、当方はこのコラム欄で日本の首相経験者の「その後」について、「元首相たちの懲りない『反日発言』」(2015年3月3日)や「元首相と呼ばれる政治家の『心構え』」(2015年3月13日)で書いたが、経済的理由からロビイストになる元首相たちは皆無だが、日本の国益に反する反日活動をする元首相は少なくないのだ。困ったことだ。日本の元首相の“反日ロビー活動”に対する規制が必要かもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年10月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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