五輪の予算・ガバナンス問題―IOCと海外メディアが理解

上山 信一
WP

五輪予算問題を報じるワシントンポスト電子版(編集部引用 ※画像を一部加工しています)

外国特派員協会からリクエストがあり、11月2日に調査チームの報告(9月29日、11月1日の2回分)と提言(11月1日)の内容を外人記者団に紹介しました。約70人くらいの参加者でした(協会からの公式要請に対し、知事と相談のうえ情報公開の観点から応じて開催したもの)。

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東京五輪の予算超過問題は、過去にも1.8兆円突破、2兆円突破というニュースが海外報道されてきました。今回はついに3兆円越えの可能性を示唆したわけですが、本部会議への報告事項を単に紹介しただけにもかかわらず非常に関心が高く、予定時間を過ぎても質疑が絶えませんでした。

この問題、最終的に世界の主要紙が記事にしましたが、彼らの関心は、国内メディアとはかなり違います。IOCもそうですが、彼らの関心事は「施設問題」ではない。ひたすら「全体予算」です。特に「予算を抑え込むガバナンス」、つまり納税者の目線とオリンピックの持続可能性の問題に集中し、なかなかに目線が高い。

たとえば、
「全体の管理体制は大丈夫か」(NY TIMES)、http://www.nytimes.com/aponline/2016/11/02/sports/olympics/ap-oly-tokyo-2020-cost.html?smid=tw-share

「このまま予算オーバーが続けば東京だけでなく今後の招致、オリンピックの継続性にも打撃」(USA TODAY)

「早く、予算の全体像を明かすべき」(ワシントン・ポスト)

https://www.washingtonpost.com/sports/olympics/tokyo-panel-shows-cost-and-venue-options-for-olympic-games/2016/11/01/fe90f56e-9fed-11e6-8864-6f892cad0865_story.html

など、我々の調査報告書の内容に沿ったものが多く、調査チームの問題意識は、作業部会を通じてIOCに深く理解され、さらに広く世界の主要メディアの間にも認知され始めたといえるでしょう。

なお、今回の会見のほかにオーストラリアのTV、AP通信社(米)、ブラジルの新聞からも次々に問い合わせが来ています。

ちなみにIOCも、今回11月1日から3日の作業部会での集中ヒアリングを経て東京大会の深刻な予算オーバーの現実に危機感を示しています。

私自身は、こうしたニュースが開催4年前の今から世界中を巡るのは、とてもいいことだと思います。すなわち、

①費用の総額(予想)がどんどん増え続けているということ、
②そして、それは現行の組織委員会や調整会議の仕組みではコントロールできそうもないこと

これらの事実をIOCと国際社会に直視してもらい、そのうえで国内の関係団体にも目覚めていただく。また、各競技の国際競技連盟や国内の各競技連盟にもコスト意識を喚起してもらう一助になればいいと思うのです。

ちなみに「アスリートファースト=立派な施設建設」という勘違いは日本特有です。なぜなら日本では建設費はもちろん運営費や維持費の大半を役所が税金で負担してきた。だから甘えがあるのです。でも海外では受益者がコストを負担するのがふつうです。

日本でも、今後は競技団体に受益者負担を求めていく、つまり大会後の施設運営コストを分担していただく時代になるでしょう。また、それに向けて都庁は施設建設費のみならず、大会後の施設の維持運営費、利用見通し、大規模改修費などを前広に都民に情報公開していくことが大事です。

いい話も悪い話も広く都民の目に触れることが税金の無駄遣いの防止につながるのです。

「ワイズスペンディングもまずは徹底した情報公開から」だと思います。今回の海外向けの情報発信に対し、批判的な方がおられるのはわかります。しかし、いいことも悪いこともどんどん情報公開すべきです。公的セクターでは市場競争原理が働きません。情報公開を経て悪事も赤字も淘汰されていきます。悪い話こそ、早めに世間に、時には世界に公開すべきでしょう。

以上、都政改革本部の特別顧問として私がプレスの要請にこたえて行った情報公開活動(記者会見)の一端をブログで情報公開しました。


編集部より:このブログは慶應義塾大学総合政策学部教授、上山信一氏のブログ、2016年11月6日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた上山氏に感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、上山氏のブログ「見えないものを見よう」をご覧ください。