トランプ氏当選、敗戦を予想していたメディアは不明を恥じよ

井本 省吾
トランプ号外@毎日新聞

トランプ氏の当確で各紙は号外を配ったが、事前の予想を裏切ったとみられる(毎日新聞より引用:編集部)

ドナルド・トランプ氏が米国の大統領に当選した。驚いたが、日本の大手メディアほど驚いてはいない。支持者調査では常にクリントン候補がトランプ候補を上回ってはいても、その差はほとんど2~4%程度の接戦だったからだ。

だが、米国の大半のメディア、そして日本のメデイァもこの差を決定的な格差とみて、勝つのはクリントンと決め付けるような報道して来た。それどころか、暴言が絶えず「品のない」「知性に欠ける」トランプを追い落とそうとキャンペーンを張った。左翼リベラルの偏ったメディアはヒラリー・クリントンを応援、明らかに偏向した報道が目立った。

その分、現実の米国人の感情や投票姿勢を不十分にしか取材できていなかった、ということだ。ワシントンやニューヨークなど政治と経済の中心地にだけで話を聞き、全米の草の根への地道な取材をして来なかったのだ。いい加減だったのである。

クリントン候補の支持者ばかりを取材し、クリントン擁護に腐心、トランプ候補及びその支持者の取材は大幅に少なかった。なぜトランプを支持するのか、その背景などとなると、腑に落ちる取材はほとんど見られなかった。

メディアはその不明を恥ずべである。だが、今のところ、率直な反省の言葉はほとんど聞こえて来ない。NHKなど日本のテレビでは、現地報道取材者がトランプ氏が「逆転勝利」などと評している。「逆転」とは当初負けていて、後で勝つことを意味するが、トランプ候補は負けていたわけではなかった。

事前のアンケート調査で僅差でクリントンより支持率が低かったというだけである。実際の投票では当初からほぼ一環して有利だったのではないか。

だから「逆転勝利」というのは、自分たちが勝手にクリントン候補が勝つと予想、期待していて、それが覆ったことを言っている。まったくの(間違った)お手盛り評価が「逆転」したにすぎない。事前の誤った予想を全く反省していない。

偉そうな事は言えない。かくいう私も現役記者時代、事前の予想が食い違ったことはしばしばあった。苦渋の思い。それを克服するには、何が間違ったか、謙虚に取材し直すに尽きる。

ヒラリー・クリントン候補の不正蓄財疑惑への嫌悪、メール問題。行き過ぎたグローバリズムへの白人を中心とした中低所得層の反感、危機感、その根っこへの具体的な取材である。

メディアの多くが左翼リベラルの中、「非知性的な」トランプ候補応援者のことを報道するのは摩擦と批判が強く、報道しにくかったのは確かだろう。だが、それでも「事実を取材し、報道する」がメディアの基本だろう。

反省せよ、と書くゆえんである。