【映画評】五日物語 3つの王国と3人の女

渡 まち子
il racconto dei racconti - tale of tales DVD Italian Import by salma hayek

3つの王国が君臨する世界。子どもを熱望するロングトレリス国の女王は、魔法使いの言葉に従い、国王の命を犠牲にして海獣の心臓を手に入れる。それを食べて男児を授かるが、やがて息子は親離れの年齢を迎える。人目を避けて暮らす老姉妹は、その美しい歌声を好色なストロングクリフ国王に気に入られる。姉は不思議な力で若さと美貌を取り戻し妃の座に収まるが、見捨てられた妹もまた若さと美を熱望していた。一方、城で暮らすハイヒルズ国の王女は城の外の世界に憧れていたが、父王の不手際で醜いオーガ(鬼)と結婚することに。断崖の洞窟で過酷な日々を過ごしながら、何とか逃げ出す機会をうかがっていた。3人の女たちの願いは叶えられるが、その果てには、運命の裏切りが待っていた…。

17世紀のナポリで書かれ、世界中のおとぎ話の原点ともいわれるイタリアの民話集“ペンタメローネ(五日物語)”を映画化したダーク・ファンタジー「五日物語 3つの王国と3人の女」。子供と母性、若さと美貌、理想の結婚と、現代にも通じる女性の性(さが)をテーマとする物語だ。おとぎ話は実は残酷なものであるという定説通り、3つの物語は、それぞれの女たちの欲望に比例するかのように皮肉で凄惨な運命が待ち受ける。特に、若い王女が醜い鬼と結婚するパートは「美女と野獣」の形ではあるが、野獣は醜く粗暴で、王女を救うヒーローもいない。ボロボロになりながら自ら運命に抗う彼女は、昨今流行の闘うプリンセスの原型のようで、興味深い。

「ゴモラ」「リアリティー」で世界的にも評価が高いマッテオ・ガローネ監督は、もともと画家を志していただけあって、その美意識が突出している。本作は、イタリアに実在する世界遺産の城でロケされていたり、たっぷりと時間をかけたゴージャスかつシュールな美術が圧巻だ。ゴヤの版画集や古典ホラー映画にインスパイアされたその独特の映像は、幻想的で毒気たっぷり。CG全盛の昨今の映画の中で、本物の手触りを感じさせてくれる。サルマ・ハエック、ヴァンサン・カッセル、トビー・ジョーンズら、国際色豊かな名優たちの競演も見所だ。こだわりのアーティストが作った、大人のための濃厚なファンタジーである。
【75点】
(原題「TALE OF TALES/IL RACCONTO DEI RACCONTI」)
(仏・伊/マッテオ・ガローネ監督/サルマ・ハエック、ヴァンサン・カッセル、トビー・ジョーンズ、他)
(ダーク度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年11月26日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookより)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。