エクソンとロックフェラー一族の衝突

岩瀬 昇

原題は “Big oil collides with a family fortune” となっているが、内容はこのブログのタイトルのとおりだ。東京時間11月26日午後2時頃にWeb版でFTが報じており、Phillip Delves Broughtonの寄稿となっている。

聞き覚えのある名前だなと思って書棚を覗いてみたら、息子の同級生で『ハーバードビジネススクール 不幸な人間の製造工場(原題 Ahead of the Curve: Two years at Harvard Business School)』 の著者だった。

同書によると、彼はバングラデッシュ生まれの英国人で、デーリー・テレグラフの記者としてニューヨーク、パリなどに勤務、2006年にHBSでMBAを取得した、とある。
FTはこういう寄稿者も抱えているのか。

さて本題だが、米大統領選のさなか、トランプさんは2012年にツイッターで「気候変動は米国の製造業を弱らせるために中国が作りだしたでっちあげだ」とつぶやいていたと攻撃された。その後はトーンを下げているようだが、気候変動が人為によるものだということにはまだ完全には納得していないようで、本当に「パリ協定」から脱退するのかどうか、注目を集めている。

その一方で、世界に冠たるスーパーメジャーのExxonMobil(以下、エクソン)が、気候変動に関して意図的な対外発表を行っていた可能性があるとして、ニューヨーク州検事総長などが捜査に乗り出した、というニュースが流れている(弊ブログ#237「米SEC、エクソンを調査=資産評価方法を問題視か=」参照)。

その背景にあると思われるのが、この記事が伝えている内容だ。
両者の関係を歴史の中に位置づけた素晴らしい文章だが、少々長いのでほんの要点のみを紹介しておこう。

・ロックフェラーの名前は、強欲な資本家ジョン・D・ロックフェラーと、歴史上最大の富の一つを築き上げた19世紀に業界を独占したスタンダード石油の名前と同義語として残っている。だが5世代目となっても、金(冨)は、そのもの自体にはまったくと言っていいほど存在していない、道義心と自慢とともに多く語られる。

・それは思いがけないところに現れる。ニューヨーク州Tarrytownにある、農場で採れたものをすぐに調理して提供するという、いま流行りのレストランもロックフェラー一族の資本によるものだ。IntelやAppleもそうだが、最近グーグルに32億ドルで売却したNest Labsや、ユニリーバが10億ドルで購入したDollar Shave Clubなどと同様、一族のベンチャー・キャピタルであるVenrockからの投資だ。

・一族の慈善団体の一つであるロックフェラー・ファミリー基金は ”New York Review of Books”上で、Big Oil(大手石油会社)と戦うこと、という一族の最新の使命を伝えている。一族の5世代目になるDavid Kaiserと、同基金の理事であるLee Wassermanがエッセイを書き、エクソンは気候変動に関する真実を知りながら利潤を優先するという、道義上許しがたいことをした点で有罪だ、と非難したのだ。

・エクソンはスタンダード石油の直系の子孫だ。したがって、両氏も認めているように、今回の攻撃は、一族の冨を築き上げた会社に対する敵対行為なのだ。

・激怒したエクソンのスポークスマンは、ロックフェラーの慈善団体は「我々に対する謀略に資金提供をしている」と非難している。

・化石燃料会社への投資から資金を引き上げているロックフェラー・ファミリー基金やロックフェラー・ブラザー基金は、エクソンや他の米石油会社が気候科学に関して、何を、いつ知ったのかを調査しているコロンビア大学ジャーナリズム大学院のチームに資金を提供している。彼らが発見したものはひどいものだった。

・彼らは、石油会社の行動は、かつてタバコ会社が喫煙とガンとの関連性について早くも1953年に知っていたにも関わらず、指摘されると事実を認めるのではなく、会社の運命をかけて長いあいだ対決したのと同じようなものだ、と受け止めている。エクソンは1970年代から化石燃料と気候変動の関連性を知りながら、これらの科学的指摘に疑問を投げかけるキャンペーンに何百万ドルも費やしてきた、と。

・この告発により、数州の検事総長が動き出し、証券取引員会(SEC)も同社の資産評価方法の調査に乗り出すことになった。これはもはや広報(PR)部門にとどまらない核心の問題だ。

・かつてのスタンダード石油は脅迫、詐欺、虐待などの手法でのし上がってきたが、1870年代の黎明期の石油産業は幼稚園ではなかったし、ジョン・D・ロックフェラーは「いじめっ子」ではなく、単にずる賢いだけだった。

・時間と冨とが、権力をも和らげるものだ。1998年にマイクロソフトが独占的行為で告発され、政府の弁護士の前で証言したとき、ビル・ゲイツは短気に、ぶっきらぼうに応対したことを覚えている人はほとんどいないだろう。今では慈善家として評価され、今週にはオバマ大統領から「自由勲章(Medal of freedom)」を授与された。

・今日のロックフェラー一族も同様に、不正とは無縁のところで富を使っている。だが一方のエクソンは、問題の多い業界にあって、利潤確保と善行との相克に悩まされている。エクソンの技術者たちは、柔らかい掌を持つ不当利得者たちから教えを受けることを嫌っている。自分たちの仕事は、信託基金から配当を集めることよりも大変だからだ。

・今から100年以上前に、スタンダード石油の悪事をあばいた進歩的なジャーナリストIda Tarbellは、同社が競争相手から重要書類を盗み出したことを発見した後に「組織に組み込まれているとてつもない才能と能力と比べたら、それは卑劣な寛大さに欠けた行為だった」と書いている。ロックフェラー一族に対するエクソンの攻撃的な反応は、同じように寛大さに欠けた行為だ。あれほどの権力と組織力を持つエクソンなら、すばやく挑み返す力をもった敵と協力することができただろう。

むむむ。
OPEC総会も大事だが、長期的観点からはエクソンに対する各州検事総長およびSECの調査結果がどう出るかの方が重要だろうな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年11月26日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。