朴大統領の危機は誰が仕掛けた「世論ゲーム」なのか?

2016年11月27日 06:00
朴大統領(産経)

産経新聞より引用

親友の国政介入疑惑スキャンダルで揺れる韓国の朴槿恵大統領が、国会で弾劾を議決され、職務停止に追い込まれる可能性が高まってきた。政権支持率は4%と墜落寸前で、韓国は大混乱だ。私は韓国事情について記事を書くには、ロッテのお家騒動絡みしか見識を持ち合わせていないし、反日的な言動を繰り広げてきた朴大統領のことははっきり言って嫌いだ。しかし、今回の朴大統領が窮地に追いやられるまでの展開が、あまりに早いことに少々不気味なものを感じる。

12月発売の近著「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」(ワニブックス)では、国内政局において、世論をいかに誘導するか、あるいはライバルより世論の支持を取り付けられるのかどうかという「世論ゲーム」の一端を書いたが、海外のほうが規模も中身も凄まじいだろう。

テレビ局にPCデータをリークしたのは誰?

そういえば、「国政介入」騒動の火付け役のテレビ局は、朴大統領の親友、崔順実被告のパソコンのデータを入手したことがスクープのきっかけだったというが、たしかいまだに入手経路が判明していないのではないか。そのような重大な私物がなぜテレビ局の手に渡ったのか。いや、誰が渡したのか。それが、どのような思惑で騒動を仕掛けたつもりだったのか、実に興味深いところだ。

今回の騒動が、偶発的な不祥事発覚ではなく、確信的な策謀であるとするならば、朴大統領を追い落とすことで、政治的な実利を得る者はそれなりに思い当たる。

先日の記事でも書いたが、与党セヌリ党内は以前から親朴派と反朴派に分かれており、反朴派は、野党から出される今回の弾劾訴追案に賛成すると言われるほど距離を置いている。同じ与党だけに、青瓦台の内情に野党よりは通じやすく、国政介入の実態を把握できた可能性はあるかもしれない。

しかし、党内政局のために、国家を揺るがすスキャンダルになれば、党の存亡危機になるので、この線は薄いのではないか。

ほかに目を向けてみよう。そういえば、朴政権の政策決定で死活問題を突きつけられた国がある。中国だ。軍事に詳しくない私でも、THAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)の韓国配備に中国が猛反発していることは知っている(ちなみに、韓国ロッテのゴルフ場の敷地に配備されることが決まっている)。海自の防衛駐在官のコラム等によれば、THAADに組み込まれている早期警戒レーダーの探知範囲(600〜800km程度)が中国の領土内に一部及んでおり、中国の軍事・安全保障の観点からは、重大な「侵害」行為だ。

THAADのレーダー範囲

THAADレーダーの探知範囲(ハンギョレ新聞、2016年7月5日より)

朴大統領はかつて中国語に堪能であるなど、極めて「親中」だったが、中国からすればTHAAD配備が決定的な裏切り行為に思えただろう。情報工作機関が、韓国政府中枢にいる協力者を動かして、国政介入疑惑が噴出するように仕掛けたのではないか?と、あくまで「仮定」の話であるものの、動機としては成立する。

やはり「北朝鮮の影」がちらついているのか?

しかし、韓国には、中国よりも直接的な脅威を持つ「外敵」がいる。北朝鮮だ。THAADの配備はそもそも核ミサイル開発を目指す北朝鮮に対する国土防衛強化の一環だ。北朝鮮のスパイ網は韓国内の草の根に張り巡らされ、過去には、盧武鉉大統領が北朝鮮のスパイだったと噂され、アメリカが軍事機密の共有を見送ったと言われるほど青瓦台中枢にも侵食していた(!)ことがうかがえる。案の定、このような憶測も出てきた。

(夕刊フジ)朴大統領、逆ギレ「戒厳令」強行も 200万人デモ、裏に北朝鮮の影

デモに「北朝鮮の影」を感じるという拓殖大学の荒木和博教授は言う。

「韓国でデモをやると、たいていむちゃくちゃになる。自然発生的に起きれば何か大きなトラブルが起きるが、今回は起きていない。ロウソクやプラカードがたくさんそろっており、ものすごく組織化されている。デモを指導している中に、コントロールができる者がいないとあり得ない」

荒木氏のような見立てについては、おそらく韓国の人たちから「民主主義が成熟してきた証し」といった異論が出てくるだろうし、「北朝鮮の影」を指摘するには、根拠が弱いようにも思える。

とはいえ、北朝鮮サイドは一連の騒動をどう見ているのか。北朝鮮政府の日本語版サイトは朝鮮中央通信のニュース記事も載せており、早速アクセスすると、社説らしき記事を発見。

論評:「恥外交」の醜悪な共犯集団」

いきなり、すごいタイトル(苦笑)で、本文は…。

「朴槿恵逆徒が働いた前代未聞の特大型の犯罪によって全南朝鮮が騒いでいる中、かいらい外交部の連中が振る舞うざまが見ものである。」

社説の書き出しも「ざまあみろ」からですよ。さらに読み進めると…。

「事実上、かいらい外交部は今まで朴槿恵ではなく、「夜大統領」である崔順実の訓示に従って国際舞台を汚してきたへぼな巫女の下僕、操り人形にすぎない。」

もう、何もいいようがないですね(苦笑)この超上から目線。

仮に北朝鮮が今回の「世論ゲーム」を仕掛けたとしたら、情報工作の手際の良さは相変わらずだなと恐ろしくなるところだが、侮蔑的な言葉を執筆者が小躍りしながら書いているようで、北朝鮮の「しめしめ感」は着実に伝わってくる。

私と同じく「反朴派」の日本人は多いだろうが、騒動が長引いて韓国政治が混迷を深めるほど、北朝鮮からすれば、軍事外交で韓国や日本に付け入るオプションが増えるようだ。朴大統領が潔く身を引くなりして、韓国にはなるべく早期に事態を収拾してもらいたい。

蓮舫VS小池百合子・書影

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民進党代表選で勝ったものの、党内に禍根を残した蓮舫氏。都知事選で見事な世論マーケティングを駆使した小池氏。「初の女性首相候補」と言われた2人の政治家のケーススタディを起点に、ネット世論がリアルの社会に与えた影響を論じ、ネット選挙とネットメディアの現場視点から、政治と世論、メディアを取り巻く現場と課題について書きおろした。アゴラで好評だった都知事選の歴史を振り返った連載の加筆、増補版も収録した。

アゴラ読者の皆さまが2016年の「政治とメディア」を振り返る参考書になれば幸いです。

2016年11月吉日 新田哲史 拝

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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