2020年、ラジオの新挑戦

中村 伊知哉

民放連パネル「2020年、ラジオの新挑戦」を開催しました。

パネリストは、メディア研究者志村一隆さん(元WOWOW、Yahoo!)、関西大学三浦文夫教授(元電通、radikoの生みの親)、ニッポン放送吉田尚記アナウンサー。ぼくが司会です。

ライブドアーニッポン放送、楽天−TBSの騒ぎがあり、通信・放送融合が話題になって10年。
ラジオ広告費は1200億円、ネット広告は1.2兆円。ラジオは1/10になりました。

テレビはキー局を中心に戦略が多様化しています。日テレはhuluを運営、フジはネットフリックスにコンテンツを提供。テレ朝はCAとAbemaTV。TBSはC Channelと提携。

ラジオ業界もradikoで魅力が再評価されたり、i-dioが新しい電波ビジネスに乗り出したりと、挑戦が始まりました。

志村さん:アメリカは局数が多く(1.5万局)、市場規模も10数倍(2兆円)。ネット、新デバイス、ソーシャルサービスへの対抗を続けてきたが、「音」というラジオらしさの発揮がポイント。

三浦さん:radikoはラジオ離れを食い止めてきたが、ビジネス拡大はこれから。テレビと異なりラジオは聴取率が貨幣となっていない。タイムシフト聴取、ネット、聴取質などを組み合わせた価値指標が必要。

吉田さん:ラジオ番組をやりながら、ニコ生、twitter、AbemaTVなども同時展開している。ラジオは全メディアと組める媒体。営業トーク「ラジオは最古のSNSだ」。

吉田さんのパンクな行動は、かつてなら社内を通らなかったでしょう。今やニッポン放送内でOKを勝ち得ているだけでなく、部署も独立して好きにさせてもらってるとか。ニッポン放送もパンクやのう!

ラジオが全メディアと組めるというのは、組んでもらえる、という面もあります。radikoを音楽業界が温かく迎えてくれたように、テレビはキライでもラジオがキライというタレントがいないように、ラジオは愛されている、という強みがあります。

まずは、どこからカネを取ってくるか。細ってゆくラジオ広告費を取ってくるよりも、吉田さんが試みるように、ネットと組んで、ネット向け投資の中からカネを引っ張ってくるのが戦略かもしれません。

ラジオは音の、ナマの、ローカルが強み。という話になりました。自動運転車の音空間だとか、IoTの場ヒモ付き情報だとか、これから広がるデジタル環境にチャンスがありそう。

ラジオのネット利用については、ケータイの通信制限がネックという指摘も。トラフィックがパンパンな状況はしばらく変わらないでしょう。となると、電波をIT利用するi-dioのようなサービスが注目されます。

ラジオはコンテンツと電波からなります。コンテンツビジネスにはみな熱心なんですが、「電波を安く使える」メリットもこれからは発揮していいはず。

志村さんの日米比較に立ち返ると、ラジオの利用率は日38%、米90%とか。それは日本のラジオに潜在能力がうんとあるということかもしれません。

2020年、ラジオ。暗い話になるかと思ったら、案外、成長産業の香りが漂う議論となり、ほっといたしました。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年12月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。