裁判官は、弱い方を攻める?

2016年12月15日 06:00

サイコロを振って、偶数が出たら100万円もらえるけど奇数が出たら100万円払わなければならないというカケを申し出られたら、あなたは受けて立ちますか?
確率2分の1なので期待値はゼロです。

金額を少しいじってみましょう。偶数なら100万円もらえるけど奇数なら80万円支払わなければならないとしたらどうでしょう?

期待値は100×0.5ー80×0.5なので、プラス10となります。理屈から言えば、あなたにとって有利なカケです。
私だったら、後者の有利なカケでも、おそらく応じません。こういう(保守的な)姿勢を”リスク回避的”と一般に呼びます。おそらく、このケースでは多くの人が”リスク回避的”になるのではないでしょうか?

”リスク回避的”という態度に対し、期待値がプラスであればカケに応じ、マイナスであれば応じないという姿勢を”リスク中立的”と呼びます。期待値がマイナスでもカケに挑むのを”リスク選好的”と呼びます。

では、偶数なら1000円もらえるけど奇数なら800円支払わなければならないとしたらどうでしょう?もっと金額を低くして、偶数なら500円、奇数なら400円なら?

この金額であれば、カケに応じる人がたくさんいるのではないでしょうか?「400円でスリルを味わえるなら、まあいいか」という感じで。

このように、”リスク回避的”、”リスク中立的”と言っても、かける金額によって態度が変わるのが通常の人です。勝てば2倍の金額がもらえるとしても、自分の全財産をかけることができるのは、よほど全財産が少ない人か(笑)、極めてギャンブル好きの人くらいでしょう。

ところで、1000万円を巡る訴訟が提起されたとしましょう。原告は30代のサラリーマンで被告は一部上場の大企業です。原告は少なくも70%の確率で勝訴することができ1000万円を手に入れることができると考えているとしましょう。

一方、被告の大企業としては勝訴できる確率は10%しかないと考えているとします。
裁判官の勧告で和解の席に着いた時、原告のサラリーマンとしては期待値である700万円(1000×0.7)以上の和解金を被告が提示すれば和解に応じるでしょう。被告としても敗訴判決を受けて1000万円を支払うくらいなら、敗訴見込み額である900万円以下だったら和解金を支払ってもいいと考えます(1000ー1000×0.1)。
800万円で和解ができれば双方ハッピーですよね。

ところが、ここで双方のリスク許容度の違いが出てくるのです。30代のサラリーマンにとっては1000万円は大金ですから、どうしても”リスク回避的”になります。できることなら判決というカケはしたくない。
一方、大企業にとって1000万円はたいした金額ではありません。敗訴の憂き目を見たとしても「どの勘定科目で処理するか?」と悩むくらいでしょう。別に判決でも構いませんよという態度を示すはずです。

手間をかけて判決書を書き、しかも上級審の判事に自分の書いた判決書の不備を指摘されることを、ほとんどの裁判官は極度に嫌がります。何としてでも和解を成立させたいと思い、弱気な方を説得しようとします。

つまり、”リスク回避的”な原告に対し「500万円だったら被告を説得しますが、いかがですか?」と水を向けるのです。そして、原告のサラリーマンに”リスク回避的”で現金として成功報酬が欲しい代理人弁護士が付いていたら最悪です。「裁判官もああ言っていますから500万円で和解しましょうよ」と、自分の依頼者を必死で説得します。

”リスク中立的”な被告である大企業の担当者としては、「別に判決でもかまわないですよ。それより先生、今日の時間が長引くと後の仕事に差し支えるんです」と代理人弁護士に言い、弁護士も「じゃあ、原告がゴネるようだったらさっさと和解勧告を蹴ってしまいましょう」ということになります。

こういう状況だと、結果的に500万円で和解が成立する可能性が極めて高くなりますよね。
裁判官は判決書を欠かなくて済んでハッピー、原告側の弁護士は500万円に対する報酬(50万円くらい)が来月にもいただけてハッピー、被告の企業も被告の弁護士も、覚悟していた金額より400万円も少なくて済んだのでとてもハッピー。
「裁判官が金額を示したのだから仕方がないか」と諦めたサラリーマンだけがアンハッピーなのですが、彼は自分がどれだけひどい目にあっているか知るよしもありません。

これが、正義が実現されるべき裁判所での日常風景なのです。

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荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2016年12月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。

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