退位問題論点とりまとめの手堅さと逃げ腰

2017年01月23日 22:30
退位有識者会議23keigen1

安倍首相に手渡された「今後の検討に向けた論点の整理」(首相官邸サイトより:編集部)

天皇陛下の退位をめぐる政府の「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」(座長・今井敬経団連名誉会長)は、「今後の検討に向けた論点の整理」を23日夕刻に公表した。

退位を認める場合の方法について、皇室典範の改正で普遍的な原則を定め恒久制度化をするには、課題が多いことが示され、今上陛下に限る特例法しかなさそうなニュアンスが示された。ただし、皇室典範においても付則のようなかたちで処置をするかは明確にされなかった。

朝日新聞社が行った世論調査では、「今の天皇陛下だけが退位できるようにするのでなく今後のすべての天皇も退位できるようにすべき」「一代限りの退位を可能とする特例法案に賛成」「法案が成立した場合でも、今後のすべての天皇の退位のあり方について、さらに議論を続ける方がよい」という結果である。

陛下が辞めたいと仰っているのだからご希望はかなえてあげたいが、議論を聞いていると恒久制度にするとすれば、いろいろ問題もあるので、とりあえず、一代限りの特例法でと政府が考えているらしいのも、もっともだから、それでとりあえず、やっておいて、あとは、ゆっくり検討すればいいのでないかというのが世論ということだろう。

そして、この報告の内容は、こうした世論を踏まえ、恒久制度にするのが筋ではあるが、こんなに難しい問題があるし、公務の削減で対応するのも、問題の解決にはなかなかならないし、摂政というのは、国事行為はいいがそれ以外の外交など公的行為などは摂政が行うのになじむのだろうかよく分からないというような論旨だ。

政府が最初から好ましいと考えていたらしい一代限りの特例法での対応を大きな反対なく行えるように是認してもらう環境作りとしては巧妙な内容で、皇室典範の本格改正を主張する民進党などには攻めにくくなるのではないか。

安倍首相は明日にも衆参両院の正副議長に会い、論点整理の内容を報告し、正副議長が各党代表に報告し、3月上中旬の法案取りまとめを目指して論議に入ることになる。

私は本来なら皇室典範を本格改正せずに、退位を認めることは筋違いで、なんなら、とりあえずは、公務の大幅な削減や、摂政制度で過渡期的に過ごして、議論の収斂を待って譲位でも良いと思った。

しかし、陛下が退位の希望を強く表明され、国民も少し熱は冷めているとは言え、それをかなえてあげたいというムードが強い以上は、このような結論もあるかも知れないと思うが、イレギュラーなプロセスであることは否めない。

そもそもの問題は、お言葉の直後にアゴラで私が「陛下のお言葉が立派すぎて象徴天皇制は危機に?」と書いたように、ビデオメッセージという強烈なかたちで陛下のご意向が表明され、それを否定しにくい雰囲気になったことがよろしくなかった。

本来なら、陛下のご希望の表明の仕方としては、内閣にお伝えになるとか、記者会の質問に記者会見の席ないし書面で回答するというかたちで陛下のご希望が問題提起のようなかたちで示されたほうがよかった。

そうした陛下の御希望をふまえて自由に多方面から議論して、なるほど、陛下の仰るとおりだと政府も国会も判断し国民もそれを支持すればそれはそれでよし、逆に、やっぱり不都合が多いとなれば、おそれながら、従前、どおりの原則でお願いしますとするのが象徴天皇制の本旨であろうし、陛下のお言葉もそういう趣旨で書かれていたと思う。

(参考:天皇誕生日記者会見でのお言葉「8月には,天皇としての自らの歩みを振り返り,この先の在り方,務めについて,ここ数年考えてきたことを内閣とも相談しながら表明しました。多くの人々が耳を傾け,各々の立場で親身に考えてくれていることに,深く感謝しています。」)

一般論として、象徴天皇制でなくとも、君主制における一般論として、大事なことで君主が自分の意見を表に出すと、その意見は国民から自由に批判をされることも必要になるし、また、結果に責任を持たなくてはならなくなり、君主制度の安定のためにはよろしくないのだ。

とくに、日本国民のかなりが“第二の玉音放送”的な受け取りをするという、象徴天皇制においてあるまじき反応をしたのは、誤算だったと思う。

もう少し細かくいうと、この論点整理で書かれていることは、一般論としてはいろいろ緻密に書かれているが、形式的で官僚的な作文の域を出ない。たとえば、公務削減や摂政とした場合にあって、いちばん、問題が多いのは外国との関係だ。

元首の不在ということが、日本の外交力を著しく弱めないかというのが、最大の問題なのだが、そのあたりは、ほとんど何も触れられていない。五輪のときにどういうことになるかもスルーされている。

また、今上陛下に限らないその先の問題も、なにも百年後にどんなことが起きるか検討しなくてはならないのでなく、皇太子殿下、秋篠宮殿下、悠仁親王、あるいは、女性女系天皇に継がせるというような制度改正をした場合にどんな問題が起きるかを具体的想定しないと意味がないのだが、そこは逃げているし、逃げていることすら書いてない。

女帝女系の問題を横に置いたとしても、今上陛下から皇太子殿下への継承より、はるかに、複雑なのは、年齢差5歳の皇太子殿下から秋篠宮殿下、年齢差39歳の悠仁親王というバトンタッチが予定されることだ。

85歳の皇太子殿下から80歳の秋篠宮殿下に継承し、その5年後に悠仁親王に譲位というのが良いとも思えない。円滑にしようと思えば、①皇太子殿下から悠仁親王への直接継承か、②皇太子殿下の早めの退位で秋篠宮殿下が10年くらいは天皇でおられる帰還を確保するかどちらかだと思うが、そうしたことも視野に入れた制度設計が必要なはずだ(ベルギー王室が同様の問題に直面した)。

また、今回は、退位されたあとの今上陛下の称号、どこにお住まいになるか、どういう活動をされるのか、財政的措置をどうするか、皇位継承の第一順位となるが、現在の水土では皇太子になれない秋篠宮家をどう待遇するか、東京五輪の時にどういう体制で役割分担するのか、東京五輪という世紀のイベントと即位礼の関係をどうするかなどという大事な問題はなにも触れていない。

それは経済にも大きな影響を与える問題だ。経済のことなどいうのは不敬だなどという人もいそうだが、明治時代に京都での即位礼の実施を決めたときなど、京都の町の盛衰など市民生活への影響を真剣に論じている。民の竈への影響を考えないでこうした問題を論じることこそ、今上陛下が崇敬される仁徳天皇以来の日本の皇室の伝統に背くものだ。

以上が、有識者会議の論点とりまとめについてのさしあたっての意見だが、今回の議論を通じて、いちばん問題だったのは、天皇と内閣を対立的にみて、①陛下を自分の陣営に引き込んで政治を動かそうとする、②今の天皇はいいから支持する、③陛下のご希望だからかなえて上げたいという人が、とくに左翼陣営から現れたことだ。

しかし、そうした的外れの考え方は、いずれも憲法と天皇制を危機に陥らせかねないものだ。とくに、天皇陛下のご学友などいうのが、不規則なかたちで陛下の意向はああだこうだ,電話で自分は陛下と話してその意向を踏まえているのだなどといったのは論外だ。君主の意向は首相や正規の顧問会議(日本で言えば皇室会議)のメンバーなどとの頻繁で充実した対話のなかで反映されるべきで不規則なルートで流出すべきでない。

天皇陛下のお気持ちを友人が代弁したいとしても、御学友某氏のように陛下と電話で話をしたとか生々しく言うのは論外。明石氏が学友としての自分の希望としていうに留めるべきだった。

最終解答 日本近現代史 (PHP文庫)
八幡 和郎
PHP研究所
2016-10-05
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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学大学院教授

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