刑法の目的と社会の安全を達成するには?

2017年01月30日 06:00
パトカー 写真AC

写真ACより(編集部)

刑法というのは、どのような行為が犯罪となるかということと処罰の範囲を規定した法律です。殺人罪を規定した刑法199条は「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」と規定しています。

ところで、「法と経済学」という学問領域では、刑法の目的を次のように定義しています。
刑法は、犯罪に関わる社会的費用、すなわち犯罪予防費用と犯罪費用の和を最小化することを最大の目的とする。

犯罪予防費用というのは、頑丈な鍵をかけたり防犯カメラを設置したりという「私的抑止費用」と、警察官の人件費や建物、車、備品のような「公的防止費用」に分けられます。
犯罪費用というのは、犯罪者が犯罪を行うことに要する費用のことです。

例えば、1万円の品物を店で買うには「店に行って商品を選んで代金を支払って…」という費用がかかります。他方、1万円の品物を盗むためには、侵入のための道具を調達し、気づかれずに忍び込む技術を習得し、場合によっては下調べをするなど、「買う」よりもはるかに大きな費用を必要とします。

「こんな費用を最小化する必要はないじゃないか?」「費用が大きい方が盗みをやめようと思うはずだ」と、思われたのではないでしょうか?私も最初は、同じ疑問を感じました。

この点については次のように考えるべきでしょう。
犯罪費用を高くする(つまり先の例だと侵入盗をより困難にする)には、犯罪抑止費用を高くしなければなりません。
防犯設備を強固なものにしたり、警察官が頻繁に巡回したり。そうなると、犯罪予防費用が高くなってしまい結果的に「犯罪予防費用と犯罪費用の和」は大きくなってしまいます。つまり社会全体のコストは増大してしまうのです。

いずれにしても、全ての人間が「犯罪は割に合わないから止めておこう」と考えるようになれば、「犯罪予防費用と犯罪費用の和」を最小にすることができることは明らかです。

では、どのような手段を用いれば、できるだけ多くの人を「犯罪は割に合わない」と考えるように仕向けることができるでしょうか?

この点については、「刑罰の重さ」に「刑罰の執行確率」を乗じた「期待刑罰」が意味を持ちます。
例えば、死刑という刑罰が50%の割合で執行されるとしたら、ほとんどの人は「犯罪は割に合わない」と思うでしょう。仮に10万円の罰金刑でも80%の割合で執行されるしたら期待刑罰は8万円。それで1万円を盗むのは絶対に割が合いませんよね。

刑罰の重さは刑法を改正するだけで実現できます。極端な話、どのような犯罪でも(こまわり君のように)「死刑!」と規定してしまえばいいので、さほどコストはかかりません。

ところが、執行確率を上げるためには、警察官の人員や稼働時間を増やす必要などが必要です。人件費だけでなく交番の数やパトカーの数を増やさなければならないので膨大なコストがかかります。

「それじゃあ、全部死刑にするか?」という訳にもいかないので、「せめて厳罰化を」という発想が出てきます。

しかし、厳罰化も(人道的な見地を無視しても)とても悩ましいのです。多くの犯罪者を懲役刑や禁固刑に処すると刑務所の維持監理費用がかかり、場合によっては刑務所数を増やさなければなりません。
これまた甚大な社会的コストがかかってしまいます。

結局のところ、ある程度の厳罰化は理論上アリだとしても、執行確率を上げるのが最も現実的でしょう。しかも、できるかぎり警察官の人員増等のコストを抑えつつ執行確率を上げることできれば一番です。

街中いたる所に設置されている防犯カメラや科学捜査の進歩は、人員増等をせずに執行確率を上げるために大いに役立っています。
そうはいっても、防犯カメラを解析したり科学捜査を使用するのは捜査に当たる警察官です。捜査活動にあたる警察官が不足していたのでは、せっかくの技術進歩も貢献度が少なくなってしまいます。

各地の事情によって異なると思いますが、おおむね交通関連の部署の警察官を捜査関連に部署に大幅にシフトすることこそ、現時点で執行確率を上げる最も有効な方法だと考えます。

もちろん、飲酒運転や粗暴な運転という危険運転は取り締まらなければなりません。しかし、今の交通警察は、「知らずに車線を変えてしまった」とか「道が空いていたのでスピードが出過ぎた」という危険性のない行為まで懸命取り締まって「違反」として処理しているのが実態です。

運悪く違反切符を切られた人間がムシャクシャして暴力行為を犯すようなことがあれば、無意味な取り締まりが犯罪を増やす結果にもなりかねません。

国家権力に裏付けされ犯罪抑止という観点から極めて効果的な警察官のマンパワー。
もっと効率的に使わないと社会資源の膨大な無駄遣いになってしまいます。

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荘司 雅彦
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編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年1月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。

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