債券市場のマインド読めず、失敗を繰り返す日銀

2月2日に実施された10年国債の入札は最低落札価格100円07銭、平均落札価格100円12銭と最低落札価格は少し予想を下回り、テールは5銭と前回の3銭からやや流れた。応札倍率は3.62倍と前回の3.59倍を上回るが、結果はやや低調との見方となった。ただし、あくまで「やや」低調であり、それほど悪い結果ではなかった。

しかし、10年債の0.1%近辺での投資家ニーズは長い年限の国債と比較して割高となっており(日銀の長期金利ターゲットで特に長期金利が押さえつけられた影響)、それほど盛り上がらなかったようである。それに加えて、日銀の国債買入対応として入札する業者も、日銀の今後の国債買入に向けた対応等がトランプ政権のプレッシャーも伴って(円安誘導ととられる政策が取りづらくなる)読み切れていなかったようである。

ここで市場は日銀のイールドカーブコントロールによる長期金利の居所を改めて探りに来た。日銀のオペタイムは午前が10時10分、そして午後は14時となる。このため、14時前に市場は日銀が想定するとみていた長期金利の上限、0.100%を試しにいったのである。しかし14時に、一部期待したようなオペレーションは入らず、その結果、2日の10年債利回りは0.115%まで上昇した。

そこであらためて注目されたのが、3日の10時10分の日銀による国債買入のオファーとなった。長期金利が0.1%という節目を越えたことで、日銀がどのような対応を行うのかが焦点となった。

3日の10時10分の日銀の国債買入のオファーは、国庫短期証券買入1兆円、国債買入(残存期間1年以下)700億円、国債買入(残存期間5年超10年以下)4500億円となった。

これをみて外為市場ではドル円が113円台にまで一時上昇したが、これは31日に発表された日銀の「当面の長期国債等の買入れの運営について」で5年超10年以下を4100億円としていたが、それがこの日のオペでは4500億円に再び増額したため、アルゴが単純に日本の長期金利低下による円安として反応したのではとの観測があった。これは見方を間違えていた。債券市場関係者の反応は債券先物をみるとわかるとおり、「売り」であった(長期金利で言えば上昇)。

債券市場関係者が「売り」で反応した理由は、5年超10年以下のところの増額が前回と同様の400億円にとどまったこと(最大5300億円まで、つまり1200億円増まで可能)、さらに金利を抑えたいのであれば、ここは普通に超長期ゾーンをオファーすべきところ、それがなかったことによるとみられる。指し値オペについては、非常手段との認識でないとみられていたが、それでも多少の警戒があり、現実には指し値オペもなかったことで債券先物を売りやすくさせた面もあったのかもしれない。個人的にも予想していたのは5年超10年以下の400億円増額プラス超長期の国債買入程度であった。しかし、それを行っても日銀はある程度の長期金利の上昇を容認しているとの認識のもとで、10年債利回りが跳ね上がる可能性は十分にあるとみていた。

つまり昨日の10時10分の日銀の国債買入の中身をみて、超長期も入らず、5年超10年以下も400億円の増額に止めたことで、ある程度の10年債利回りの上昇を日銀は容認しているとものサインとも受け止められ、債券先物が大きく売られることになった。債券先物は昨年12月16日につけた149円38銭も下回ったことで、あらためて下値模索の様相となった。10年債利回りは一時0.150%に上昇したが、この長期金利の上昇には別の伏線もあった、3日に公表された金融政策決定会合議事要旨(12月19・20日分)には、国債買入れの運営について下記のような意見があったのである

「複数の委員は、市場では、「ゼロ%程度」との長期金利操作目標の上限・下限をそれぞれ+0.1%・-0.1%とする見方があることを指摘したうえで、そうした画一的な基準を設けることは適当ではないとの認識を示した」

この複数の委員は単純に考えると佐藤・木内委員にみえるが、2人の委員だけでなく日銀の意向とも言えるものではないのかと市場はやや疑心暗鬼ともなっていたとみられる。日銀の想定している長期金利のターゲットの上限はプラス0.1%と厳密に置いているわけではないということを、日銀はオペレーションで示してきたのではないのか。それが10年債利回りの0.150%までの上昇に繋がったとの見方もできなくなかった。

この際に私は当日14時の指し値オペの可能性について質問を受けた。しかし、上記のことから想定されるのは、日銀はある程度の10年債利回りの上昇は黙認する可能性であり、その仮定の上で「ない」だろうと答えていたが、知り合いの市場関係者などから話しを聞くと、いや「ありうる」との答えが返ってきていた。

なぜありうるのか、その理由を考えてみると、日銀はもしかすると400億円程度の増額で長期金利の上昇にブレーキを掛けられると信じていたのかもしれない(状況を考えるとそれはかなり債券市場の地合の読み方を間違えたともいえる)。もし日銀が読み間違えていたのであれば、10年債利回りの0.15%までの上昇は想定以上のピッチとなる上、ここで歯止めを掛けておかないと、0.200%あたりまで簡単に上昇するリスクが生ずる。それならば後場、14時のオペタイムでの0.150%での指し値オペの可能性は考えられるということになる。

結果として日銀は通常のオペタイムではなく12時半というイレギュラーな時間帯に新「天下の宝刀」ともいうべき「指し値オペ」をオファーした。11月17日に初めて実施された指し値オペは実勢利回りが指し値よりも低下したため応札額がゼロとなり、いわば空砲であった。しかし、今回の国債買入は、対象が残存期間5年超10年以下の固定利回較差は0.006%(前日の引け値対比)となり、10年利付国債345回でみた買入利回りは0.110%となった。前場の10年債利回りの引け水準が0.140%近辺となっていたので、今度は空砲ではない。

ここにいくつか問題点があった。ひとつは時間帯である。なぜ通常の14時でなく12時半だったのか。後場始まって何も手を打たずば、すぐにでも10年債利回りが0.200%あたりまで利回りが急上昇してしまうのを避けたいがため、後場いちで手を打ったのか。それとも黒田日銀特有のサプライズ狙いなのか、黒田総裁が国会に出席する予定の関係等も噂されたが、ようするに慌てたようである。それならば何故、朝方に手を打たなかったのかと言う疑問も沸く(あの程度の国債買入の調整でおとなしくなると思っていたのか、となれば読み間違えとなる)

そしてなぜオペの水準を10年345回でみた0.110%にしたのかと言う疑問も残る。0.100%では決定会合議事要旨の内容と異なることにもなるが、それでも妙な刻みである。前日の引け0.115%を意識したのか。なぜ0.150%あたりにしなかったのか。0.150%であれば空砲となってしまうからかもしれないが、0.110%だと前場の国債買入の5年超10年以下の買入をした業者は、ここで日銀に売らず、指し値オペで入れたほうが儲かったこととなる。ちなみに指し値オペの応札額は7239億円となっていた。

指し値オペの実施中、なかなか面白い現象が起きていた。業者間でのポジション調整の場でもある日本相互証券での10年345回の板で、0.110%のビッドが次々と打たれ一時オファーとなっていたのである。手数料等を考えると日本相互証券で0.110%で売らずとも日銀の指し値オペで売ったほうが費用は少ないはずなのにである。

結果として3日の指し値オペは奏功し、10年債利回りは0.1%を割り込むこととなった。しかし、これで済むとは思われない。今後もこのようなドタバタが繰り返されることも予想される。日銀の相場の読みのまずさも露見してしまったことで、市場参加者は今後さらに日銀の国債買入オペが読みづらくなってしまった。そもそも長短金利操作付き量的・質的緩和という名前の長さからもわかるとおり、何でもくっつけてしまった日銀の金融政策は債券市場を蔑ろにした。そして長期金利はコントロールできると豪語した日銀だが、その市場マインドすら読めない日銀が果たして今後も的確に長期金利をコントロールできるのかという疑問を残すこととなった。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。