紅白のポルト酒とピンクのちょうちん

カモメが呼ぶ。窓を開けると汐の匂いが強い。ドウロ川の脇、大西洋が近い。
ボストンに住んでいたころは、まいにち大西洋を見ていたけれど、こっちが大西洋の正門なんですよね。
ポルトに来ました。
リスボンが東京なら、ポルトは商売の街、大阪。
リスボンの人口は50万人。ポルトは24万人。日本の10分の1から100分の1。
つつましく、騒がしい。
倒れたままの物乞い、陽気なよっぱらい、痩せこけたジジイと腹の出た若い女のペア、仕事をしない工事現場の連中、鼻輪で丸刈りのウェイトレス、へったくそなギター弾き。
場末っぷり、ナニワっぽい。
こいつらの先祖が南蛮という連中。好きです。
濃いヨーロッパに、アラブやアジアが交じり合ったような、荘厳でいかめしく、でも下品な喧騒が夜ごと続く、そう、イスタンブールに似た風情があります。
油断するとおっさんが寄ってきて「コカあるよ」とささやく。
好きです。
マカオの、ポルトガルとアジアの混血模様を見た後だから殊更そう見えるのかもしれません。
→マカオを訪れたツイート。
→どこを歩いてもぼくが切り取る風景は似たようなものですが。
ブランコ、ビスケット、ボタン、かぼちゃ、パン、タバコ、天ぷら、コップ、おんぶ。
この国から伝わった言葉は今も生きています。
京都・先斗町のポントもそう。先端、ですね。
南蛮は先端を走っていました。
フェニキア、ギリシャ、ローマ、西ゴート、イスラム、キリスト。
支配者が変わり、15世紀には栄華を極める。
この水辺からブラジル、インド、マラッカへ出向く。
一転、16世紀から5世紀間の衰退を知ることになります。
99年にマカオ、2002年に東チモールが独立して、21世紀初頭に15世紀以来の帝国が終焉しました。
どういう心境だろう。
これから衰退をたどりそうな日本の鏡か。
いや、高度成長から停滞へ転じた今の日本の心持ちか。
広場ではサンバやボサノバの大音量。
だらしなく踊る男女。
リオ五輪があったからといって、かつて支配したブラジルの音楽を楽しむのにわだかまりはないものか。
だからといってファドは哀しすぎます。
南蛮って、唐辛子とネギのこと。
鴨なんばん、大好き。
カモネギのことなんだよね。
これはポルト名物、牛の内蔵煮込み、トリパス。
トリパス、トリパス、ルルルルル。
アズレージョと呼ばれる美しいタイルは、ペルシャ人、ムーア人伝来のもので、ポルトガルの各地に根付く文化。
ポルトガルの旅は、アズレージョの確認作業でもあります。
街の有名人はロザ・モタ。
ロザ・モタといえばパンチ佐藤。
他に有名なポルトガル人って誰?
フィーゴにCロナウド。スポーツ選手ばかりだ。
歴史ではバーソロミュー・ディアスとかバスコ・ダ・ガマとか難しい名前を覚えさせられたけど。
エッフェルの弟子が作ったという橋をみな自慢します。
いや、フランス人を持ちあげなくとも、ポルトにはいいものがうんとあるよ。
世界で一番美しいと評判の本屋。
ハリーポッターのロケ地にもなったとか。
入場に3ユーロ取るのに、開店時に300人も並んでいて入れず。
いや、ポルトはそんなものに頼らなくったって、ほかにうんといいものがあるよ。
たとえば、ポルト酒は、赤より白のほうが素直でスキ、という発見。
たとえば、これが後の ひょうきん族の神様である。
と思った。

編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年2月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。